「決闘する恐竜」法廷闘争へて公開 倉庫で眠った14年

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/12/12
ナショナルジオグラフィック日本版

2006年に、民間の化石ハンターが発見したティラノサウルスとトリケラトプスの化石。最近になって米ノースカロライナ州の博物館に買い取られたことにより、研究が進むと期待されている(PHOTOGRAPH BY MATT ZEHER)

10年以上、古生物学者たちが行方を気にしていた化石がある。有名な2つの恐竜ティラノサウルスとトリケラトプスが一緒に保存されている貴重な化石だ。しかも、2頭はしっかりと組み合い、まるで戦っているかのように見える。

化石には、「決闘する恐竜」というニックネームがつけられた。どちらの個体もそれぞれ優れたサンプルであるうえに、2頭の恐竜がひとつの化石に収まっているというのは極めて珍しい。死後にたまたま同じ川の砂州に流れ着いて重なり合ってしまったのか、それとも、本当に格闘したまま一緒に息絶えたのか。その答えを知りたくても、これまで科学者がその化石を研究する機会はなかった。

だが、それが今、変わろうとしている。長年の法廷闘争の間、倉庫にしまい込まれていた化石は、最近になってついに米ノースカロライナ州にあるノースカロライナ自然科学博物館(NCMNS)に引き取られることが決まった。民間の基金と、地方自治体、州政府による寄付のおかげで、非営利団体「NCMNS友の会」が化石を買い取ることになったのだ。購入金額は公表されていない。

化石は、2022年に同博物館にオープンする予定の新館に所蔵される。それに伴い、最先端の古生物学研究室も新設される。ノースカロライナ州立大学の古生物学者で、NCMNS古生物学部長を務めるリンジー・ザンノ氏は、「『決闘する恐竜』は、10年以上隠されてきた宝石です」とコメントを出した。

14年間の日陰暮らし

発見から博物館にたどりつくまでの長い旅の物語は、化石そのものと同様にドラマチックだ。

06年夏、熱い太陽が照りつける米モンタナ州の牧場で、化石ハンターのクレイトン・フィップス氏は、一生に一度の大発見に出くわした。いとこのチャド・オコナー氏が、何かの骨の欠片を発見したのだ。欠片はひとつだけではなく、点々と一本の筋を描くようにいくつも並んでいた。その筋をたどっていくと、ついに丘の斜面から突き出ていたトリケラトプスの骨盤を発見した。それから数カ月かけてその周囲を掘り起こすと、骨格がほぼ完全にそろったトリケラトプスの化石が現れた。しかも、同じ場所からティラノサウルスの骨が一緒に出てきたのだ。

フィップス氏のクルーは、化石を布と石こうで保護して牧場から運び出し、モンタナ州フォートペックにある民間の研究所に保管した。フィップス氏は、牧場主のリージ・モーリー氏とメアリー・アン・モーリー氏の夫妻とともに博物館に化石を売ろうとしたが、買い手がつかず、化石は何年も研究所にしまい込まれたままになっていた。

米国では、連邦政府が所有する土地で見つかった化石は、博物館など政府認定の機関に所蔵されることになっているが、今回のように民間の土地で発見された化石は売買することが認められている。

13年、英オークション会社ボナムズが、化石を競売にかけないかとフィップス氏とモーリー夫妻に持ち掛けた。買い手を選べないことには抵抗があったが、発掘にかけた費用を取り戻す必要があったため、3人はこれに同意した。ところが実際に競売にかけてみると、最低落札価格の600万ドル(約6億2300万円)を上回る入札がなかったため、競売は不成立となり、化石はニューヨーク州の倉庫に収められた。

それからさらに数年がたったころ、NCMNSのザンノ氏が化石を買い取りたいと申し出た。16年2月に倉庫を訪ねたザンノ氏と博物館の職員は、実物の化石を見て息をのんだという。

「今にも歩きだすんじゃないかと思うほど、生き生きとしていました。生きていた頃の姿が目に見えるようです」

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ティラノサウルス化石の半分は民間所有
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