腸管免疫に刺激を与えるという点では、乳酸菌、ビフィズス菌などのプロバイオティクスにも注目したい。ある種の乳酸菌では唾液中のIgAを増やすことが確認されているが、下のグラフの研究では乳酸菌摂取を開始して10~21日ほどでIgA量が増加している。 こうした菌の力を借りるなら、受験や、重要な仕事がある日などから逆算し、2~3週間前からとり始めておくのがよさそうだ。IgA産生力が高い状態、言い換えれば免疫能のスイッチが入ったアイドリング状態を維持し、新たな病原体が侵入したときにいち早く対応できる可能性がある。

一方、腸の有用菌のエサにもなる食物繊維には、粘膜を守る粘液の成分「ムチン」の分泌を高める働きがある[4]。これを確認する研究を行ったのが静岡大学農学部応用生命科学科の森田達也教授。「食物繊維が不足すると、腸内細菌叢のバランスが崩れ粘液量も減る。そのため粘膜もリスクにさらされるが、食物繊維をとるとこれを腸内細菌が食べることで産生される酪酸、酢酸といった短鎖脂肪酸がムチン産生に寄与する。さらに直接エサにならない硬い食物繊維(不溶性食物繊維)も、粘膜にあるムチン産生細胞に物理的な刺激を与えて、ムチンの産生を促進する」と言う。

<成人女性が乳酸菌b240摂取で唾液中IgAが増加>

30人の健康な女性を、乳酸菌b240摂取群(20億個・200億個)、水摂取(プラセボ)群に分け、21日間摂取。唾液中のIgA増加量は、乳酸菌b240摂取群で有意に上昇した。(データ:Jpn J Lactic Acid Bact.;2006;17(2):132-136)

[3]Ann Surg. 2006 Sep;244(3):392-9.

[4]J Nutr. 2013 Jan;143(1):34-40.

感染防御作用を高める経鼻ワクチンの開発が進行中

防ぎたいウイルスに対応する抗体を、直接、粘膜上に増やして感染防御能を高める次世代ワクチンの開発も進みつつある。鼻の粘膜に噴霧する経鼻ワクチンというもの。

インフルエンザにかかったとき「ワクチンを接種したのに……」と思った経験はないだろうか。従来の注射による皮下接種型ワクチンは感染後の重症化抑制を主な目的にしている。「皮下接種型ワクチンは、主に血中に多いIgGというタイプの抗体を誘導することによって重症化を防ぐが、s-IgAのような粘膜免疫を誘導できないため、感染自体を防ぐには不十分であることが課題となっている」(長谷川センター長)

そこで、長谷川センター長が研究・開発しているのが経鼻ワクチンだ。「粘膜上にワクチンを噴霧することで、実際のウイルス感染で起こるのと同様の粘膜免疫が誘導できる。そのため、感染自体を防げる可能性がある」(長谷川センター長)という。

動物を対象にした試験で、経鼻ワクチンは同じ型のウイルスによる感染を阻止することが確認されている[5]。さらに、噴霧したワクチン株と異なる型のウイルスにも対応する交叉防御効果が高いことや、ヒトの鼻粘膜上で、インフルエンザウイルスの不活化力が高い多量体のs-IgAを増やすことが確認されている。「多量体のs-IgAは、ほかの抗原にも対応する『交叉防御』力が高いため、流行するウイルス株の予測が外れても効果を発揮する可能性がある」(長谷川センター長)といい、実用化が待たれる。

最後に、長谷川センター長による、この冬の感染防御のためのポイントをまとめた。

マスクなどで喉を保湿、保温
気温低下と乾燥から喉粘膜を守るために、マスクなどで乾燥を防ぎ、保温する。
食事制限などを避け、バランスのよい食生活を
食事摂取量を極端に減らすことを避け、さまざまな食材から栄養をバランスよくとる。特に、ビタミンDには抗菌物質ディフェンシンを誘導したり、広く免疫細胞を活性化したりする働きがあるため、これを多く含む魚類を意識して摂取し、難しければサプリメントで補いたい。ビタミンD合成を促す適度な日光浴や十分な睡眠の確保も重要。
歯周病は早めに治療
歯周病は口腔内の菌叢に悪影響を与える。歯周病の原因菌の中にはウイルスを活性化するものもある。唾液量が下がるとそれに含まれるIgA量も低下するため、口腔内の乾燥に注意して、清潔な状態を保とう。
腸内環境を整える
乳酸菌類や食物繊維をとることは、直接的な免疫細胞刺激作用を促し、腸管や上気道の粘膜免疫の維持につながる。

上気道と腸の免疫能低下に気を付け、冬の感染症を遠ざけたい。

[5]Microbes Infect. 2007 Sep;9(11):1333-40.

(ライター 柳本操 イラスト 三弓素青)

長谷川秀樹センター長
国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター・センター長。北海道大学医学部医学科卒業。北海道大学大学院医学研究科、米国ロックフェラー大学、ユニバーシティカレッジダブリン、国立感染症研究所感染病理部を経て2019年より現職。実験病理学、感染症病理学を専門とし、経鼻粘膜投与型インフルエンザワクチン開発を行う。
森田達也教授
静岡大学農学部応用生命科学科。同大学大学院総合科学技術研究科農学専攻応用生命科学コースを兼任。岐阜大学卒業。食物繊維の栄養生理作用、腸内細菌叢と大腸生理機能、ムチンと粘膜バリアについて研究する。
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