マンション購入 公式サイトでもわかる「危ない」物件
榊淳司 後悔しない住まい選び(2)
コロナ禍でも「マンションを買いたい」と考えている人は一定数いるようです。私のところに寄せられる購入相談の件数も、それなりの数に達しています。そういう人々にとって「家がほしい」というモチベーションは、コロナ禍でも衰えないのでしょう。今回は、買ってしまうと数年後に悔やみそうな危ない物件の見分け方をいくつか紹介します。
公式サイトのトップは売り主の「売り」
新築マンションの購入を検討する場合、多くの人はまず、不動産情報サイト「SUUMO(スーモ)」や「LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)」、ヤフーの不動産サービス「ヤフー不動産」などのポータルサイトで物件を探します。私の経験上、スーモが最も多くの物件を網羅しています。
半面、スーモはかなり情報が見にくいのが特徴です。そこで、お勧めは各物件のページの下部までスクロールし、小さな字で表示されている「物件公式ホームページトップへ」をクリックします。そうすれば、その物件の公式サイトに飛ぶことができます。
公式サイトをチェックすること自体、かなりお勧めです。その理由は売り主の考えが読み取れるからです。トップページには売り主が最もアピールしたい内容が出ています。それが、そのマンションの場所なのか、モノ(マンション自体)なのかが分かります。
価格示さず 割高な可能性
トップページで場所やモノをアピールしていない場合、頭の中に「危険信号」をともしてください。場所もモノも言えないから、タレントを出したり、何か意味不明のワードを並べたりするケースが多いからです。そういう物件は要注意です。
トップページに長々とした動画がある物件も注意です。売り主の担当者が合理的に物事を考えていない可能性が高いからです。そういう担当者は、しばしば不合理としか思えない設計を採用したり、管理規約に理解しがたい条項を盛り込んだりすることがあります。
販売が始まってから(公式サイトが立ち上がってから)数カ月以上が経過しているのに「概要」に価格が表示されていない場合も要注意。販売担当者が「値段を出すとモデルルームに来てくれないかも」と危惧している場合、なるべく価格を表示しないからです。つまり価格が市場相場よりかなり高いのです。
逆にトップページに大きく価格を出している場合などは「価格で勝負している」ということか、あるいは「値引き販売実施中」のサインである場合がありえます。
メリットだけ表示しているサイトも
コロナ禍によって新築マンションでは売れ行きが鈍化している物件が数多くあります。そのような物件も、建物の工事は予定通り進んでいる場合がほとんどです。すでに建物が完成している物件も少なくありません。戸数の少ない物件なら、建物が完成してから販売活動を始める「竣工販売」という手法が取られているケースも多くなってきました。
そういう物件が往々にして値引き販売をしています。ただ、値引きをしている物件が必ずしもお買い得ではないことは、前回の記事「マンション買うならいつ 年明け、例年以上の値引きか」で説明しました。
多くの人は新築マンションを購入する場合、インターネットで様々なことを調べます。ネット上には公式サイトのほかにも、その物件に関する情報を表示しているサイトが数多くあります。前述のスーモなどは物件探しに活用するには便利なサイトです。
ほかにも新築マンションを紹介しているブログや、物件別にスレッドを設けた「掲示板」サイトも有名です。そのようなサイトで情報を収集するのもひとつの方法ですが、それだけに頼るのは危険です。なぜなら、サイトの内容が多分に売り主側の情報を基にしているからです。つまり、メリットのみを表示しているケースが多いのです。
モデルルームの内装に「感心」しない
新築マンションを購入する場合、もっとも大切な情報は現地にあります。モデルルームを訪ねる前に現地をじっくり見てください。それも頭を真っ白にして。人間は基本的に「見たいものだけを見る」習性があります。「買いたい」という思いが強いと、目の前にマイナスの情報があっても無意識にスルーしてしまいます。このため、ちょっと意地悪なくらいの目線で現地を見ましょう。そして周辺のエリアを歩き回りましょう。
それでも買いたい、検討したいという気持ちがあれば、モデルルームを訪ねてください。ただ、モデルルームではインテリアコーディネートなどに感心してはいけません。あのように暮らしている人はほとんどいません。
まず、図面をもらってよく見てください。
購入を検討している住戸のタイプ図だけではなく、敷地の配置図や各階平面図、立面図などを見ながら、買いたい住戸がどの位置にあるかを確認してください。エントランスから住戸への経路も図面上でめぐりましょう。
そして販売担当者になんでも聞いてみましょう。「こんなことを聞いては失礼かな」などと遠慮は無用。マンションだけではなく、現地周辺を歩き回って疑問に感じたこともメモし、販売担当者に尋ねてください。
営業トークからもわかる「危険」な物件
販売担当者は物件に関することであれば、高度な専門知識を要するような質問以外は何でも答えられて当然です。接客を始めるまでの数週間でその物件に関するあらゆることを頭にたたき込んでいるからです。こちらの質問に答えられなかったり、ごまかしたりする場合は危険信号です。また、次のような営業トークをする販売担当者も危険です。
「これを逃したら同じような物件は二度と出ません」「このマンションの資産価値が下がることはありません」「このエリアはますます発展しますから、いまがチャンスです」「いま決めないと、ほかに買いたい人が何組もいます」
彼らはできるだけ客を迷わせないように時間的に追い込み、焦燥感をあおります。そういうトークがあまりにも頻発する物件は、販売側がよほど焦っている証拠です。そのような物件は中古でも売りにくいはずなので、より慎重になるべきです。
◇ ◇ ◇
「一生の買い物」といわれる住まいの購入。誰しも失敗はしたくないでしょう。戸建てやマンションの最新情報のほか、販売業者などの事情にも精通する榊淳司氏が、後悔しない住まいの選び方をアドバイスします。
住宅・不動産ジャーナリスト。榊マンション市場研究所を主宰。新築マンションの広告を企画・制作する会社を創業・経営した後、2009年から住宅関係のジャーナリズム活動を開始。最新の著書は「限界のタワーマンション(集英社新書)」。新聞・雑誌、ネットメディアへ執筆する傍らテレビ・ラジオへの出演も多数。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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