朝の体は「筋肉分解モード」。たんぱく質を重点的に
朝ごはんのときに卵やヨーグルトを取っているから、たんぱく質は不足していないだろう、と思うかもしれない。しかし、「トーストとコーヒー、卵料理」や「ごはんと味噌汁、納豆」といったシンプルな朝食で取れるたんぱく質は、10~12gほど。「効率よく筋肉を合成するには、1食あたり20gのたんぱく質摂取を目指したいところ。一般的な朝食の10~12gでは、約10g足りないことになります」(藤田教授)。
実際、2012年の国民健康・栄養調査の結果を解析した研究では、日本人の1食あたりのたんぱく質の摂取量が20g以上の人の割合は、夕食では多いが、昼食、朝食では少なくなった。また、朝食においては、たんぱく質摂取量が20g以上の人は、30代から70代の全年代で5割にも満たないことがわかった[注3]。
「朝は軽く取り、昼もパンや麺類などの糖質中心、夜だけがっつり肉を食べる、という食べ方は、筋肉を合成モードに持っていけない残念な食べ方といえるでしょう」(藤田教授)。
では、朝にたんぱく質を摂取することが、筋肉合成にどう影響するのだろう。
藤田教授は、「筋肉の合成は、たんぱく質を摂取し、消化し、アミノ酸の血中濃度が上がることによってスタートします」と説明する。
下図のように、食事でたんぱく質を取ると、筋肉では筋たんぱくの合成が進む。しかし、食後に時間がたつと、筋肉は合成から一転して分解モードになる。
こうして筋肉は一日の中で分解と合成を繰り返しているが、「たんぱく質の摂取量が十分でないと、アミノ酸の血中濃度が上がらず、筋肉合成のスイッチがオンになりません。それどころか、たんぱく質不足によって筋肉の分解が始まってしまうのです」(藤田教授)。
下図を見てわかるように、1日の中で、最も筋肉の分解モードが長く持続しているのが朝だ。「だからこそ朝には十分な量のたんぱく質を意識的に摂取し、合成スイッチを入れる必要があります」(藤田教授)。
朝は最もたんぱく質補給が重要

「筋肉合成のためのたんぱく質の不足が長期間積み重なると、それだけ筋肉量の維持が難しくなります」と藤田教授。
なお、朝、たんぱく質を取ることによる効果は、筋肉の維持のみにとどまらない。「たんぱく質は、食欲を抑えるホルモンの分泌に関わっているため、食後の満腹感を高め、食べ過ぎや、仕事中の間食を抑えられます」(藤田教授)。
また、食後に体がぽかぽかするのは、食事誘発性熱産生(DIT=Diet Induced Thermogenesis)という反応が起こるためだが、「たんぱく質摂取量が多いほどDITは高まります。また、筋肉量が多いほどDITは高まります。つまり、筋肉量がしっかり維持されていると、脂肪が燃焼しやすく痩せやすい体を手に入れることができるのです」(藤田教授)。
たんぱく質を取ることによるアンチエイジングの御利益は、たくさんあるのだ。
[注3]Geriatr Gerontol Int. 2018 May;18(5):723-731.
1食あたり20gのたんぱく質は「手のひら」で量る
筋肉に合成スイッチを入れる目安は、1食あたり20gのたんぱく質。この量を取る目安として、下図を参照してほしい。調理されたりカットされたりしている肉や魚の場合は、手のひらと同じサイズを目安にしよう。「肉や魚の場合、たんぱく質の含有量は、総重量の20%ほどになる。手のひらと同じサイズなら重量は約100g、含まれるたんぱく質は20gほどになる」(藤田教授)。いつもの朝食に、乳製品や大豆製品をプラス。サラダにツナやサバ缶を加えたり、間食に高たんぱくのギリシャヨーグルトやチーズ、プロテインバーなどを取ったりするのもいい。
肉や魚は手のひらで量ると簡単

なお、動物性たんぱくよりも植物性たんぱくのほうがヘルシーな印象があるが、藤田教授は、「同じたんぱく質でも、それぞれ特徴や性質が異なります」という。
動物性たんぱく質は、体に必要なアミノ酸を豊富にバランスよく含む。「魚や肉、乳製品には、筋肉の合成スイッチを強く入れるロイシンという必須アミノ酸が豊富に含まれることが特筆すべきメリットです」(藤田教授)。一方、植物性たんぱく質は、必須アミノ酸の種類や量は劣るものの、脂質が少なく、脂肪の燃焼を助ける働きを持つアルギニンというアミノ酸が多く含まれる。どちらも組み合わせて取ると良さそうだ。
また、たんぱく質は、消化吸収のスピードが速いほど効率よく筋肉が作られる。「脂質が多いと、消化スピードはゆっくりになります。また、かたまり肉よりも赤身ひき肉のほうが、消化されやすい形状であるため、筋肉になりやすいといえます」(藤田教授)。
1食20gを目安に、意識的にたんぱく質摂取を始めよう。
(ライター 柳本操、図版 増田真一)
