女性の自殺者増える、コロナで家庭のケアワークが重圧
ダイバーシティ進化論(水無田気流)
10月の東京都医師会定例記者会見で、平川博之副会長が8月の国内自殺者数について若年層と女性が急増したと報告した。資料によると2017~19年の同月平均と比べ、20代未満は2倍以上増えた。40歳未満の性別を見ると男性は356人で前年比31.4%増だが、女性は189人で前年比76.6%の大幅増という。
一般に国内での自殺は男性が7割を占め、女性が急増するのは極めて珍しい。この点について同報告では、女性の経済的基盤の弱さも指摘した。「労働力調査」の20年7~9月期平均と前年同期を比較すると、非正規職員数は125万人減だが、内訳は女性が79万人と多い。背景には観光・宿泊・飲食業など「非正規女性職員」が多い業種の休業や減収が考えられる。
会見では女性の自殺急増の要因として自粛生活での孤立に加え、リモートワークや休校措置で女性が家族のケアを抱え込んでいる点も指摘された。たしかにこれら「ステイホーム戦略」は、この国の「男女で非対称な家族のケア負担」を先鋭化させた。ただでさえ女性は平均的に男性の5倍の時間を家事・育児・介護などに費やすが、自粛生活下ではどうなったか。
社会学者の落合恵美子氏と、鈴木七海氏が4月に実施した在宅緊急調査によれば、子どものいる女性の36%が「家事育児」に困ったとしているのに対し、子どものいる男性では15%と女性の半分以下にとどまる。さらに休校や保育園休園が理由で子どもが家にいる場合を見ると、女性は44%に跳ね上がった。
子どもや夫の昼食の支度、休校中の学校から課された子どもの自宅学習の手伝いなど、昼間の時間もすべてケアワークに費やすことを要請され、睡眠時間が減少し、心身の不調を訴える女性が増加したとも指摘される。
新型コロナウイルスは、つくづく新自由主義的な感染症といえる。元からあった経済社会的格差があらわになり、若年層や女性に牙をむいているように見える。しかも、本来なら被害者であるはずの感染した人に「自己責任」が問われてしまう。このうえ過剰な「自粛」を要請する日本社会の気風が加わり、平素から家族のケアを担うことが期待される女性たちは重圧に苦しめられる事態となった。
この「社会的な病」を克服するには、社会のはらむ構造的課題を解決する必要があると強く訴えたい。
1970年生まれ。詩人。中原中也賞を受賞。「『居場所』のない男、『時間』がない女」(日本経済新聞出版社)を執筆し社会学者としても活躍。1児の母。文字小
[日本経済新聞朝刊2020年11月23日付]
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