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「ばかばかしさ」を追求して 怒濤の日々(井上芳雄)

第81回

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NIKKEI STYLE

井上芳雄です。11月は怒濤(どとう)の日々です。9日から東急シアターオーブでミュージカル『プロデューサーズ』に出演しているのですが、久しぶりの大劇場でのミュージカルコメディで、出ずっぱりの主役としてツッコミ続けているとあって、体力やエネルギーをものすごく使います。お客さまの前に出ると自然とテンションが上がるし、毎日大暴れしているみたいな気分です。

『プロデューサーズ』は2001年にブロードウェイで初演された傑作コメディ。米国演劇界で最高の栄誉とされるトニー賞で、史上最多となる12部門で最優秀賞を受賞しました。落ち目のプロデューサーであるマックスが、気の弱い会計士のレオと組んで、史上最低のミュージカルを製作して興行を失敗させ、出資者から集めた資金をだまし取ろうという話です。今回の日本版演出は福田雄一さん。振り付けはブロードウェイのそのままで、セットや衣装も豪華だし、ミュージカルらしいゴージャスな舞台です。

政府の入場者制限の緩和方針に基づいて、客席は100パーセント使えるようになりました。初日に、久しぶりに満席の劇場を見たときは感動しました。お客さまの笑い声も大きいし、拍手も手拍子も大きい。満席になった大劇場で演じるのは今年初めてなので、特別な初日になりました。

傑作コメディといっても、米国と日本では笑いの文化が違うので、お客さまが笑ってくれるかどうか不安もありました。始まってみると、日によって多少の差はあっても、狙ったところで笑いが起こるので、物語やキャラクターがちゃんと伝わっている手応えがあります。稽古ではオリジナルの台本の面白さを伝えることと、アドリブで突っ込んだりすることの両方の笑いを探ってきました。見た人からは、どれが台本でどれがアドリブか分からないと言われるので、うまくバランスがとれているようです

カンパニーの雰囲気はすごくよくて、演じていても、みんな適材適所だと感じます。マックスは僕が演じていて、レオ役は吉沢亮君と大野拓朗君のダブルキャスト。2人とも個性も演技も違うので、それぞれ違ったレオになっているのが面白いところです。

吉沢君は、ミュージカルは初めてなので準備が大変だったと思いますが、そんなところは全然見せずに、稽古場でもすごくクール。それでいて一発かましてやろうみたいな気持ちの強さがあって、やっぱり映像の世界でいろんな経験をしてきたんだなと。演技や動きにしても、舞台の役者とは違う発想で挑むのが新鮮で、僕にも、周りのキャストやカンパニーにも、いい刺激になっています。自分では人見知りだと言っていて、最初はほとんどしゃべらなかったのですが、心の開き方も独特というか、しゃべってみると実はすごく面白くて、時おりチャーミングな一面も見せてくれます。クールな面とのギャップに驚かされます。

大野君は、持ち味が全然違っていて、自分で「僕は本当にまじめなんです」と言っていました。自分でまじめと言う、まじめな人もあまり見たことがないので、そのツッコまれやすいところが個性じゃないでしょうか。WOWOWの番組で「どっちのレオがやりやすいですか?」と聞かれたので、そのときは「やりやすいとかはないけど、大野君のほうがはたきやすい」と言いました。マックスが新聞でレオの頭をはたくアドリブの場面があります。もちろん吉沢君もはたかれたからといって怒らないですが、大野君のほうがはたいても大丈夫な雰囲気を漂わせている(笑)。そのおおらかな感じも、ひとつの才能だと思うし、実際そういうレオになっています。

 会計士のレオは、舞台のプロデューサーになるのが夢だったので、マックスの企みが違法と知りつつも、夢をかなえるために詐欺に加担します。吉沢君のレオは、もともとプロデューサーの素質があって、刺激的な世界で自分を表現したいというエキセントリックな願いをずっと押し殺して生きてきたのが、マックスに出会って爆発してしまったというふうに見えます。一方、大野君のレオは、マックスの言葉に心を動かされ、純粋な気持ちであこがれてプロデューサーの道に入ってみたら、すごい世界でびっくりしてしまい、そこで自分自身が変わっていくように見えます。どっちのレオも面白くて、それぞれの個性が出ています。

技術があるからキャラクターが生きる

マックスが考えた史上最低のミュージカル計画は、ヒトラーを愛するドイツ人のフランツが書いた『ヒトラーの春』という脚本を使って、女優志望のスウェーデン人で英語が話せないウーラを主演女優に据え、ロジャー・デ・ブリとその助手カルメンのゲイ・カップルに演出を任せるというもの。資金はホールドミー・タッチミーをはじめとする裕福な老婦人から色仕掛けで巻き上げます。それぞれのキャストが、見事に役にはまっています。

ウーラ役の木下晴香さんは、コメディは初めてだそうです。チャレンジだったと思いますが、ネタやギャグを自分で考えてきてくれたり、ボケたりしてくれるので、僕もツッコミがいがあります。歌もダンスもスタイルも、役に必要な要素を持っていて、お芝居も自分で考えてきて、それが全部はまっているのは素晴らしいこと。ブロードウェイ版のウーラはセクシーな大型美女という感じですけど、晴香さんは清楚(せいそ)で清潔感があって、下ネタを言っても嫌な感じが全然しないので、そこも今回の『プロデューサーズ』に合っていると思います。まだ若くして多くのものを持っているので、ポテンシャルがすごく高い女優さんです。

ゲイの演出家ロジャー役の吉野圭吾さんとは、いろいろな作品でご一緒しているのですが、僕が見てきた圭吾さんの役の中でも一番はまっている感じがします。圭吾さんは、役を演じているときには、ずっとその役の気持ちでいる没頭型の俳優さんですが、そういう点でも今回ははまったのではないでしょうか。身も心も稽古場からロジャーになり切っていたし、今となっては元の圭吾さんがどんなだったか思い出せないくらい。歌も踊りも、ちゃんとした技術があるからこそキャラクターが生きると思うので、ミュージカル俳優の素晴らしいところを見せてくれているように思います。

ロジャーの助手カルメン役の木村達成君は、二枚目の役が多かったと思いますが、ゲイの役もコメディーも初めてだそう。女装も美しいので、もともと役の要素は持っていたと思います。稽古場では、「ぶっ飛んだ役なので、役として立つのがめっちゃ怖いです」とか「自分はもっと面白い人間だと思っていたのに、全然面白いことができない」と言ってましたが、それを素直に言えるのも逆にすごいこと。稽古中に自分でアイデアを出したり、圭吾さんと一緒に考えたりして、どんどん芝居が変わっていって、それが今、舞台で花開いています。彼を見ていて、若い役者が役をつかんでいく過程はすごくまぶしいし、かけがえのないものだなと感じました。

お金持ちの老婦人ホールドミー・タッチミー役の春風ひとみさんは、昔から存じ上げているのですが、本当に実力のある素晴らしい女優さんです。役も自分で作ってこられていて、稽古場の第一声からできあがってました。とにかく振り切り方がすごい。限界がないというか、こういうことはできないということがありません。2人がからむ場面の稽古でも、「ここで僕が押し倒すので」と言うと「じゃあ、私はもう下着が見えるように脚を開げるから」とか(笑)。2人でいろいろやりながら、動きを決めていったのですが、なんのてらいもなく演技に徹するところは、いつもながら素晴らしいと思いました。

ヒトラーを愛する脚本家フランツ役の佐藤二朗さんは、誰が見ても役にぴったりですね。歌もうまいし、福田さんのコメディという色を一番出してくださっています。僕はちゃんとご一緒するのは初めてです。二朗さんがすごいところは、笑いを生み出すのに細かいディテールを作って、稽古中にいろいろ試すこと。それで固まってきたら、「ちょっとここのテンポを変えてみるよ」とか「この単語はなしにしてみるね」とか、さらに細かくアレンジしていく。だから自由にやっているように見えて、実は考え抜かれています。それだけ芝居と笑いに対してまじめだし、笑いって奥が深いんだなと。勉強になります。

今だからこそコメディーをやる意味

この7人以外にも、すご腕のミュージカル俳優たちががっちりと脇を固めてくれていて、みんなで毎日真剣に全力で笑いに向き合っています。幕が開く前は、今の時期にこんなにふざけたコメディーをやっていいのだろうかと思わなくもなかったのですが、開けてみたら、今だからこそやる意味があったのかなと思いました。お客さまは、何も考えずに大笑いできて、現実を忘れられる時間や、劇場の非日常空間を楽しんでいただけていると思うので。結果的には、よかったのかなと感じています。

日本では11月から大きなミュージカルがたくさん幕を開けました。これは世界的にはまれな状況です。ブロードウェイの劇場街は2021年5月まで閉鎖が決まっているし、欧米の人からすれば、今ミュージカルの公演をやれていること自体が奇跡的。だから演劇界を代表してやらせていただいているという思いもあるし、同時にいつこの状況が覆るかも分からないから、1回1回の舞台をかみしめながら、という気持ちも強いです。

今年はコロナ禍で大変なことがいろいろありましたが、1年の締めくくりに、こんなにゴージャスでばかばかしいミュージカルをできるとは、なんて幸せなことだろうと思います。願わくば、このミュージカルの力が多くの人に希望と勇気を与えられますように。

さて、最後にお知らせがひとつ。この連載が初めて単行本になります。2017年7月から3年半にわたって連載してきた記事をテーマ別に再編集して、書き下ろしを加えました。『夢をかける』という書名で12月21日(月)に全国の書店で発売されます。よければ、ぜひ読んでみてください。

『夢をかける』 井上芳雄・著
 ミュージカルを中心に様々な舞台で活躍する一方、歌手やドラマなど多岐にわたるジャンルで活動する井上芳雄のデビュー20周年記念出版。NIKKEI STYLEエンタメ!チャンネルで月2回連載中の「井上芳雄 エンタメ通信」を初めて単行本化。2017年7月から2020年11月まで約3年半のコラムを「ショー・マスト・ゴー・オン」「ミュージカル」「ストレートプレイ」「歌手」「新ジャンル」「レジェンド」というテーマ別に再構成して、書き下ろしを加えました。特に今年は、コロナ禍で演劇界は大きな打撃を受けました。その逆境のなかでデビュー20周年イヤーを迎えた井上が、何を思い、どんな日々を送り、未来に何を残そうとしているのか。明日への希望や勇気が詰まった1冊です。
(12月21日発売/日経BP/2700円・税別)
井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第82回は2020年12月5日(土)の予定です。

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