――市場を分析することは大事ですが、売れると思ったものばかり作っていたら同質化は避けられません。さらにコロナショックでより保守的に、萎縮していたら救いようがありませんね。

鴨志田「規模を追求して売れるものばかり作ろうと思っても、今の時代、実際にそんなには売れません。一方、規模を求めずに質を追求した結果、規模がついてくるといった現象はあります。要は顧客を見ながらも、鮮度の高い提案をし続けていく姿勢が大事なんですよ」

淡いピンクやチェック、ブラウンなどのスーツが並ぶ。「ブランドの本質はソフトトラッド。甘い色も取り入れています」

「色気が出るとスーツを着たくなる」

――今こそプロダクトアウトの発想が大事だということですね。

石津「気候や環境も服に対するニーズに大きな影響を与えます。消費者のライフスタイルの変化は敏感に察知しないと。例えばコロナのせいで、今は都会に住むことすらあやしくなってきている。ならば地方の暮らしを反映させたスタイルが出てくるかもしれない、と考えたっていい」

鴨志田「いいですね。僕はローカル推進派なので。日本の良さは地方や四季の変化にあります。小さな町にしかない産業、工芸品、食材、それが日本の魅力で、都市集中になってしまったら面白くない。装いもその土地ならではのものが求められるかもしれません。これからはカントリージェントルマンですよ」

――カジュアル化の流れに加え、コロナショックでスーツから遠ざかった人も多いはずです。若い世代はビジネススーツに興味を持たなくなっているのでしょうか。

鴨志田「興味は間違いなくありますよ。20歳の息子の友達を見てもわかります。皆がカジュアルだから、自分はスーツで差を付けたい、と若い人たちは考え始めている。そもそもファッションは、人と違う、自分らしくいたい、という願望から生まれているところがある」

フォーマルスタイルに合わせる、個性的で美しいボウタイやカマーバンド

――ビジネスマンも、制服としてのスーツという意識が希薄になり、スーツに楽しさを求めるようになるかもしれない。

鴨志田「そう、いずれはビジネスのためだけでなく、ハレのもの、おしゃれするためのものとして、スーツを楽しんでもらえる時代がくるでしょう。たとえ市場規模が小さくなったとしても」

石津「それを支えるのが人なんですよ。僕なんかはスーツを1着作ろうかな、と考えたときに、生地のことなんかは頭にない。信頼する店長さんや、お気に入りのスタッフの顔が頭に浮かびますもの。あと、自分のファッションを人に見せたい、という気持ちが充実してくると、スーツを着たい、という気分になってきます。異性を意識する、ということもそうなのですが、色気が出てくるとスーツを着たくなりますよ」

(聞き手はMen's Fashion編集長 松本和佳)


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