鴨志田「昔、銀座のテイジンメンズショップ本店でVANを扱っていました。その裏にポール・スチュアートの店があったんです」
石津「テイジンメンズショップで買ったVANを着たら、その後はやっぱり外国ブランドを着たい。そんな夢を抱かせたのがポール・スチュアート。モダントラッド、ワンステップアップトラッドショップだった。アイビーを卒業したら道は2つ。アイビーの形にこだわる人はブルックス・ブラザーズ。モダンで新しいものを着たい、という人がポール・スチュアート」

コロナ下こそ、ブランドの主張が大事に
――ポール・スチュアートはメンズファッション界でどんな位置づけだったのですか。
鴨志田「時代背景でいいますと、60年代に全盛となった米国のアイビーは、ベトナム戦争の後半の頃にラルフ・ローレンが登場してから、徐々に変化していきます。それまでのアイビーはシンプルでストイックで保守的。70年代に入り、ラルフ・ローレンやポール・スチュアートによって華やかなアイビーが台頭する。70~80年代のもっとも華やいでいた時代のポール・スチュアートの顧客はアイビールックを卒業したエグゼクティブで、リッチな文化人や芸能人に支持されていました」
――この店の品ぞろえは重衣料の存在感が大きくて、ちょっとしたひねりがきいています。こちらのブラウンのタキシードがまさにそう。中はタートルニットを合わせてボウタイも無し。着方に遊び心があふれています。
鴨志田「タキシードはアメリカを代表するスーツです。フォーマルウエアは時代とともに変化していくもので、昔ならタキシードにはボウタイでなければいけなかったのですが、いまならシーンに合わせてこんなに遊んだ着方もできる。このタキシードはブラウンという色そのものが、華やかなハリウッドスタイルなんです」

石津「基本破りが見事。色にしても、形にしてもね。基本を破ってどう見せるか、という工夫がポール・スチュアートは上手で、そこにファンがつく」
――紳士服業界はコロナショックで一段と厳しさを増していますが、現状を打開する糸口はどこにあるのでしょうか。
鴨志田「コロナの影響は今後どうなるか、だれにも予測がつきません。今大事なのは、そのブランドの主張、アイデンティティーをはっきり打ち出すことだと思います。コロナ以前から、どこもかしこもマーケットインの発想でもの作りをしていましたが、それはナンセンスですよ、一言でいうと」

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