「地方×副業」で起業 老舗酒蔵で教わった仕事哲学JOINS社長 猪尾愛隆氏(上)

JOINSの猪尾愛隆社長は地方企業と副業人材の双方を応援している
JOINSの猪尾愛隆社長は地方企業と副業人材の双方を応援している

都市部の大手企業で働きながら、地方の中小企業で副業・兼業するという新しい働き方を始める人が増えている。仕掛け人の一人は、地方企業に特化した副業・兼業人材紹介を手がけるJOINSの猪尾愛隆(いのお・よしたか)社長だ。猪尾氏は博報堂、クラウドファンディング大手のミュージックセキュリティーズをへて2017年に起業した。かつての取引先で出会った「仕事人」たちに刺激を受け、自分は何のために働くのかを見つめ直したことが起業のきっかけになった。

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40歳で起業するまで、猪尾氏にはいくつもの転機があった。最初は学生時代。慶応義塾大学理工学部で応用物理を学んでいたが、大学院進学を機に文系に転じた。「理系は向いてないと思った」という理由からだ。慶応義塾大学大学院では応用物理とは畑違いの政策・メディア研究科を選んだ。

「もちろん物理は好きでしたが、ある時、僕が丸3日かかってプログラミングしたものを、隣のやつが5分ぐらいでやってのけたのを見たんです。その瞬間、『ああ、この世界で食べていくには僕はオタク度が足りないな』と痛感しました。だったら超優秀なエンジニアと組んで、ビジネスをつくる側に行ったほうがいいだろうと」

大学院ではコミュニティー論やネットワーク研究で知られる金子郁容・同大大学院教授(当時)のゼミに入り、様々な社会課題を「コミュニティー」という切り口で解決する手法を研究。修士論文でテーマに据えたのは、当時はまだ一般的に知られていなかったクラウドファンディングだ。大学院仲間にはIT(情報技術)企業に就職したり起業したりする者も多く、「いつしか自分も」と考えた。

将来の起業を見据え、博報堂には必要なスキルを学ぶつもりで入社した。配属されたのは法人営業部。仕事は面白いし、報酬もいい。居心地の良さに、サラリーマンでいるのも悪くないと思い始めた頃だった。味の素でクノールカップスープの広告を担当することになり、商品開発担当者らの仕事ぶりに衝撃を受けた。彼らは、四六時中スープのことを考え、どこそこのスープがおいしいと聞けば、すぐに現地に飛び、自らの舌でそれを確かめ、味の秘密を徹底的に研究する。まさに「スープオタク」の集団だった。

「いくら気の利いた広告のコピーをつけたりビジュアルを工夫したりしても、商品の本当の価値の源は、開発者たちの熱量なのだと思いました。圧倒的な熱量があるからこそ、こだわりが生まれ、商品開発の決定打となる最後の一振りが生まれる。そういう世界で生きている人たちと付き合う中で、本当にこの仕事がやりたいとか、やる意味があるという思いがないと、いい仕事はできないと気づきました」

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「仕事は手段にすぎない」 神亀酒造7代目の教え