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なぜ脳と体の成長に時間差が? 人間の一生に戦略あり

人類学者 長谷川真理子さん(下)

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NIKKEI STYLE

 地球温暖化、感染症のパンデミック(世界的な大流行)、エネルギー問題、再生医療、民間宇宙開発、そして人工知能(AI)……。人類の未来を左右する大きなテーマは、どれも科学の知見が欠かせないものばかりだ。そんな時代を生き、よりよい社会を築くにはどうしたらいいのか。科学の学びを生かし、それぞれの目標をめざす「サイエンスアスリート」から、そのヒントを学ぶ。

チンパンジーなど様々な野生動物の研究を経て人間そのものを対象とするようになった人類学者、長谷川真理子(はせがわ・まりこ)さん。インタビュー後編は、動物と比較した場合の人間の特徴や進化の行方、そして男性に比べ女性科学者が少ない現状などについて聞く(前回記事は「探検のはじまりはチンパンジー ヒトはなぜ人間なのか」)。

――人間を研究する難しさはどこにあるのでしょうか。

「動物としての人間はどうできているかを自然人類学では考えます。人間を特殊にしているのは脳で、脳科学や神経行動学、認知科学、心理学などは脳の働きを研究をしています。一方の文化人類学は、自然人類学のことを考えずに、文化や言語について研究が進められています。人間は動物ですから、遺伝子や脳の基本構造で一般化できますが、それだけでは言語や文化の話が置き去りになってしまい、本当の人間の理解にはなりません。動物である部分と、文化や言語をどうつなげるのか、私もなかなか分からなかったんです。いまだにちゃんとした研究の枠組みはないんですが、それでも少しずつできつつある状況だと思います。そういう領域に私は足を踏み入れていったので、紆余曲折(うよきょくせつ)がありました」

「この15年間、私はイヌと暮らし、ほかにもネコ、クジャク、ヒツジ、シカ、テナガエビといった生き物を丸ごと見て研究してきました。動物はどう暮らしているのかは結構理解できています。さらに人間はどう暮らしているのか。文明国だけではなく、アフリカで焼き畑農業を続けている人の暮らしなど、いろんなものを自分で見たのは、いいバックグラウンドだと思っています」

人間は「共同繁殖」の社会

――人間について、どんなことが分かってきたのでしょうか。

「数年前まで、人間の思春期の研究に関わっていました。人類にとってこんなに長くて難しい時期があるということの意味は何か、ということですね。今はもっと若手の研究者が続けていますが、私が興味あるのは生活史戦略です。生まれてから死ぬまで、人間のライフヒストリーがどういうふうにつくられているかということですね」

「チンパンジーでは、赤ちゃんの成長と母親の関係をテーマに研究していました。チンパンジーのメスは長ければ50歳まで生きますが、自分が生まれて離乳するまでに5年かかって、子供期が7歳ぐらいまであり、10歳ぐらいで性成熟した後、死んでしまうまで子供を産み続けます。最後の子は、まさに母とともに共倒れします。人間とは違って、更年期はないんですね。そんなふうに、動物ごとに、いつ成長が止まり生み終わるのか、その時間配分がどう違うのかをみてきたんです」

――それを人間にも応用してみたということですか。

「私が関わっているプロジェクトでは、東京都の10歳の子供3800人の追跡調査を始め、その子たちが今は16歳になっています。他のプロジェクトの進展もあり、いろいろなことがみえてきつつあります。どうやら脳で、前頭葉と他の領域をつなぐような配線が完成するのは30歳ぐらいだということが分かってきました。一方で、体は11歳ごろに性成熟が始まり、女性は16歳ごろには子供が産めるようになり、20~22歳で繁殖力のピークを迎えます。脳が完成する前に繁殖力のピークがきて、その後は急速に繁殖力が落ちて100歳まで生きるわけですね」

「男性の場合、全身の筋肉がきちんと力を発揮できるピークが30歳ごろで、かつての狩りの生活を想定すると知識や技術もそろって生産性がピークになるのは45歳ですね。人間というのは、親になった父母だけで子供を育てるのではなく、周りからの知恵や助けがあって成立する『共同繁殖』の社会だという証拠だと思います」

――人間はこの先、どう進化していくのでしょうか。

「進化が起きるためには淘汰が起きる必要があります。病気への抵抗性を決めるような単純な遺伝子の場合、ここ1万年、一世代25年とすると400世代を経る間に、結構な選択圧がかかり、変化がありました。ただ、脳のような大きなシステムとなると、同じように変化が起こることは考えにくい。特に1組の夫婦から生まれる子供が少なくなっている現代社会では、淘汰はかかりません」

「(淘汰はなくても)人間は脳がつくる文化や知識の集積で状況に対処することができます。ただ、気がかりなのは、科学をもとに新しいものがつくり出され、人間がずっと暮らしてきた環境とかけ離れた世界に私たちが囲まれるようになっていることです。かつては汚いものも食べながら1日25キロメートルも歩いて、夜はたき火のそばで寝ていたわけですから。それがいつも電気がついていて、ほとんど運動しないような人もいます。赤ちゃんの時からスマホを操作する世代も登場しています。私は科学者なので、科学もイノベーションも好きですが、何か体へのストレスがあるのではないか、このギャップが何か影響してくるのではないかと危惧しています」

「おじさん連合」に同化しなくていい

――科学の分野で女性研究者が少ないのはなぜでしょうか。

「日本の状況は世界から20年、3周遅れという状況です。東京大学理学部の外部委員をしていたときに、女子学生の比率が増えないことについて議論したことがありました。理由を聞いて回ったところ、地方にいる優秀な女子学生は親が東大に進学させないそうです。地元の大学の医学部に行き、いろいろな圧力もあって結婚のタイミングで医者を辞める。それをまた医学部の先生が、女子学生は医者になっても、辞めてしまうからダメなんだ、と言っているような状況でした。マインドセット(習慣的な考え方・心構え)全体を変えないといけません。女子学生が参考にできるロールモデルが少ない、ということも原因の一つかもしれません」

「日本の社会は『おじさん連合』が都合よく運営している状況が続いていて、そこに女性が入れずにいます。それ自体がおかしいので、女性がおじさんたちと同化したり、こびを売ったりする必要はありません。ただ、おじさん連合を壊していくことは、なかなか難しいですね」

――海外の状況はどうですか。

「欧州はここ20~30年でだいぶ変わってきた印象があります。米国をみるとは実はまだ男社会のようですね。欧州は中世の宗教戦争を経て獲得した平等の概念など、歴史的な厚みがあるからかもしれませんが、企業の取締役の30%を女性にする取り組みもありますね。そして欧州委員会の委員長はウルズラ・フォンデアライエンさんで、国際通貨基金(IMF)の専務理事から欧州中央銀行総裁になったクリスティーヌ・ラガルドさんのような女性もいます」

「2019年にノルウェー北極大学と大学間学術交流協定を結びました。ノルウェー大使館での調印式に出席した時、その場にいたノルウェー北極大学の学長、ノルウェー研究・高等教育大臣、駐日ノルウェー大使、そして私が女性でした。『これは素晴らしい』と言ったら、『もっと当たり前にしていかないといけない』とノルウェー北極大学の学長に言われてしまいました。でも最近の30代をみていると、『おじさん連合』とは違う考え方の男性もいる印象があります。少しずつ変わっていくのではないかと期待しています」

(聞き手はライター 鴻知佳子、撮影 北山哲也)

長谷川真理子
1952年、東京都生まれ。76年東京大学理学部生物学科卒。タンザニア野生動物局勤務をはさみ、83年に東大院理学系研究科人類学専攻博士課程単位取得退学、86年に博士号(理学)を取得。英ケンブリッジ大でダマジカや野生ヒツジを研究後、米イェール大人類学部客員准教授、専修大法学部教授、早稲田大学政経学部教授などを経て、2006年に総合研究大学院大学教授に着任。17年より現職。著書に「モノ申す人類学」(青土社)、「進化とはなんだろうか」(岩波ジュニア新書)、訳書にダーウィン「人間の由来」(講談社学術文庫)など。

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