食中毒→客離れきっかけに組織を洗い直す

――カリスマ性の強かった創業者から学んだことは。

「社長室長として桜田氏の近くで仕事をしたのは3カ月間です。学んだのは、まず言行一致。言ったことはすぐ実行、指示したことはきちんと確認するという印象でした。あとはすべて自己責任。それは私が入社した頃から変わらない印象です。ある年の株主総会で、リハーサルでは置いてあった水差しが本番で机の上になかったことがありました。社内は少しざわつきましたが、本人は『自分が使うものだから自分が最終確認すべきだった』と反省しているのです。仕事でもあまり細かなことを言われた記憶はありません。当時、私が提案した資料を読み返しても、蛍光ペンで線を引いて『できる!』『GO!』と書いてある程度で簡潔です」

趣味はサッカー観戦。「日本代表が好きだけど、あえて言えばJリーグのFC東京を応援してます」といい、社長室に選手のサイン入りのスパイクを飾っている

「社長室長になった初日に言われた言葉は『笑顔を大切にしよう』。印象的でした。なぜ笑顔かというと、やっぱり人の幸せの原点だからでしょう。ありがとうと言われたり、おいしいものを食べたり。誰でもにこっとしますよね。小さいことかもしれないけど、実は大切なことです。感謝される仕事を大切にする、という企業理念にもつながります。私も昨年、オーナー向けのメッセージのテーマを笑顔にしました。自分1人の笑顔が誰かを元気にする。だから大切にしようと。全国のモスバーガー約1300店がそうなれれば、まちを変えるきっかけになるかもしれない、と伝えたかったのです」

――18年8月に食中毒が発生し、客離れにつながりました。どう乗り越えましたか。

「まずはお客様の容体が心配で、それに対応しました。次に被害が拡大しないか、いわゆるリスクマネジメントが求められました。私としてはとにかく迅速に対処しようと考え、不安を抱えるオーナーへの情報開示と共有も進めました。いま振り返ると、もっと迅速に対応できたはず、という反省もありますが、当時は『もう一度組織を洗い直せ』と誰かに言われていると感じました。一番大切な食の安全・安心を見直せ、原点に立ち返ってもう一度立ち上がれ、と。『モスがお客様に、かわいがってもらえる会社になるには、すべてを洗い直さなければならない』と覚悟しました」

「トラブルが起きると、最初は誰でもピンチだと考えます。だけど、その壁を乗り越えると次はまた強くなれる、一段上にいけるはずです。食中毒の危機をいったん乗り越えられたかな、と感じたのは翌年の3月です。既存店売上高を前年比100%に戻す、という目標が達成できたからです。全国に20あるオーナー会を回って、『もう一度お客様の信用を取り戻しましょう』と呼びかけました。危機のときこそ、チェーンとしての底力が試されると痛感しました」

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瞬時に決めて、攻めと守りを同時に行う
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