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「脱物質化」がいろいろな分野で生じていることを検証した

「脱物質化」がいろいろな分野で生じていることを検証した

地球温暖化や資源の枯渇に歯止めをかけるには経済成長にブレーキをかける必要がある、と多くの人は考えがちだ。しかし、今回紹介する『MORE from LESS 資本主義は脱物質化する』(小川敏子訳)の著者は、時代の変化でトレードオフの関係は終わったと指摘。成長と地球環境の維持保全は両立できることを検証した。資源の消費量を抑えるテクノロジーが進化する時代に、さらに豊かになるために何をなすべきかを私たちに問いかけている。

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アンドリュー・マカフィー氏(写真:Evgenia Eliseeva)

アンドリュー・マカフィー氏(写真:Evgenia Eliseeva)

原題「MORE from LESS」を訳すと「より少ないものから、よりたくさんのものを得る」となります。有名なマルサスの『人口論』は「人口増加のペースに食糧生産量が追いつかず、将来は多くの人が飢えることになる」という懸念を提起しました。またローマクラブがまとめた『成長の限界』は、経済発展のペースを落とさなければ、資源の枯渇で成長は頭打ちになると予測しています。しかし、本書は、こうした悲観論とは異なる立場を取っています。それは「資本主義は危機を克服できる」という考え方です。

著者のアンドリュー・マカフィー氏はマサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院の首席リサーチ・サイエンティストです。MITデジタル経済イニシアチブの共同創設者兼共同ディレクターで、デジタル技術がどう世界を変えるかを研究しています。エリック・ブリニョルフソン氏との共著に『機械との競争』『ザ・セカンド・マシン・エイジ』(いずれも日経BP)があります。

脱物質化のメカニズム

20世紀には工業化の負の側面が広い範囲で表面化しました。公害や環境破壊が象徴的です。背景には大量生産、大量消費のシステムがありました。しかし21世紀になってから潮目が変わりつつあるようです。著者はアメリカの経済統計からその流れをつかみました。

一つは金属消費量の推移です。1900年以降のアメリカにおける実質GDPは、2010年代にいたるまで右肩上がりで増えてきました。一方、アルミニウムは1990年代後半をピークに減少傾向に転じています。銅やニッケル、鉄鋼についてもほぼ同じ傾向が観察されました。石材やセメント、木材などの建設資材も、ピークが少し後ずれするものの2005年ごろを境に減少に転じます。農業でも同じことが言えます。農作物収穫量は増え続けていますが、肥料の消費量は1990年代後半から減り始めました。

著者はこの傾向を「脱物質化」と命名し、いろいろな分野で生じていることを検証しました。「脱物質化」を直感的にイメージしやすいのは、スマートフォンです。本書はスティーブ・シチョンという歴史学者が最近書いた記事を引用しています。彼は1991年の新聞のバックナンバーから、家電量販店・ラジオシャックの広告に着目しました。そこには、15種類の電子機器が並んでいます。そのうち13種類が、今や自分のポケットに入っていることに気づきました。

 計算機、ビデオカメラ、クロックラジオ、携帯電話、テープレコーダーなど13種類の「携帯端末型」機器が、シチョンのポケットのiPhoneの一部になっていた。コンパス、カメラ、気圧計、高度計、加速度計、GPS機器などは広告に出ていなかったが、やはりiPhoneなどのスマホに入っている。大量の地図帳やCDも。
 iPhoneの成功を予想できた人はほとんどいなかった。2007年11月、フォーブス誌が組んだ特集記事は、フィンランドの携帯電話メーカー、ノキアが世界中で10億人のユーザを獲得していると褒めちぎり、こんな問いかけをしている。「この携帯電話の王者に勝てるものがいるだろうか?」
(第7章 何が脱物質化を引き起こすのか――市場と驚異 128ページ)

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