パン頬張る杉咲花 PascoのCM、食べる側に大転換売れるCMキャラクター探偵団

2020年10月からPasco(敷島製パン)のCMに起用された杉咲花
日経クロストレンド

豊かな自然と穏やかな音楽の中でおいしそうなパンが登場し、癒やされながらも食欲が刺激される「Pasco」ブランドで知られる敷島製パンのCM。小林聡美や深津絵里といった大人の女優が登場していたが、2020年にバトンを受け取ったのは杉咲花。今回初めて「食べる人」に目線を変えた演出が注目だ。

今回のキャラクター:杉咲花
■企業:敷島製パン(Pasco)
■商品:超熟、国産小麦の塩バターパン

<クリエイターズファイル>
■クリエイティブ・ディレクター:都築徹
■コピーライター:石附久美
■CMプランナー:すかいみちこ
■プロデューサー:大出雅夫、佐藤良祐
■演出:鈴木わかな
■歌:二階堂和美
■広告会社:電通中部支社
■制作会社:東北新社

ターゲット層の代表として「食べる人」に

バスケットに「超熟」の食パンとフライパンを入れ、緑あふれるのどかな土地を旅する杉咲花。直売所で売っている卵、近くの農家の婦人からおすそ分けされたキャベツを使って即席トーストを作る。持参のフライパンでとろりと焼いた卵を、いためたキャベツと共に超熟食パンに載せて頬張る杉咲。偶然通りかかった農家の婦人と共にトーストを食す。風景をバックに商品カットと「余計なものは入れない」のブランドメッセージの次に、食べたトーストのイラストを描いた日記の1ページが映る。日記帳を抱え、旅を続ける杉咲――。

20年に100周年を迎えた敷島製パン(Pasco)の新しいCMは、これまでとは大きく変化している。これまでキャラクターは客のために振る舞う側だったが、キャラクター本人がパンを食べる側に立ち位置を変えたのだ。その意図は、新CMがターゲットとする20代~30代前半女性の代表として登場する杉咲自身がおいしそうにパンを食べることで、「視聴者に『自分ごと』だと感じてもらうため」(敷島製パンのCM担当者)。

おいしそうに食べる側でターゲットに魅力を伝える

ブランド誕生から22年がたち、ターゲット層にとってなじみのある食パンになっている超熟。そこで改めて「余計なものは入っていない。おいしくて安心なパン」(CM担当者)という魅力を理解してもらうため、思い切って「食べること」に目線を変えた。以前は小林や深津といった落ち着いた大人の女性を起用していたが、20代の杉咲を起用したのもターゲットの若返りに加え、大胆な方向転換を伝える狙いからだ。前任の2人同様ナチュラルな存在感を放つ杉咲で、小麦本来の味が伝わるこだわりの製法をもつ超熟の「余計なものは入れない」信念を伝えている。

超熟はPasco初の主力ブランドだ。98年に発売すると関西からヒットし、すぐに人気は全国へ広がった。なぜ関西から火が付いたのか。それは「湯種(ゆだね)製法」という大量生産では困難とされていたパンの仕込み法に、大手製パンメーカーで初めて大阪の豊中工場が成功し、関西圏から販売をスタートさせたからだ。熱湯をかけて人の手でこねなければできなかった湯種製法の量産技術は、「超熟製法」の名で特許を取得。今でも社内の限られた人しか知らない「極秘技術」だという。

07年にはふっくらと小麦本来のおいしさを生かしたパンを作るため、イーストフード、乳化剤を不使用に。01年の牛肉に始まる相次ぐ食品偽装問題で、消費者の食の安全に対する意識が高まっている中、超熟はいち早くシンプルな材料での製造に乗り出した。07年以降は味や食感の訴求から「余計なものは入れない」にブランドメッセージを変更し、現在に至る。

07年以降一貫して「余計なものは入れない」をブランドメッセージに

05年からは国内食料自給率の低さへの懸念から、国産小麦を使った商品群の開発にも着手した。「国産小麦を使うことで、長い目で見て自給率を上げていきたいという思いがある。経済活動よりも社会貢献の意味が大きい。自社製品の国産小麦粉の比率を現在の11%から、30年には20%に引き上げたい」(敷島製パン)。今回の杉咲から国産小麦シリーズもCMを打ち、アピールを強めている。

前身の製粉工場時代に製パン技術を取得し、米騒動のさなかに「米に代用できる主食を」との思いで敷島製パンを創業した、盛田善平の社会への貢献に懸ける思いは脈々と受け継がれている。

超熟ブランドを憧れとして確立させた小林聡美

実は超熟のCMは、発売から数年間はタレントを使っていなかった。その後、ブランドとして確立させるために小林を起用したところ、認知がぐっと広がったという。「小林さんと共に超熟は育っていきました」(CM担当者)。

当時まだ日本の食卓にはなじみのなかった、イングリッシュマフィンを使った様々なアレンジレシピを作る小林のCMを覚えていないだろうか。イングリッシュマフィンは50年以上も前から発売されていたが、超熟ブランドから発売することになったタイミングで広告に力を入れ始めたのだ。

時にホームパーティーで、はたまた屋外のお店で、子どもたちに静かにかつユーモアあふれる表情でイングリッシュマフィンを振る舞う小林に、当時のターゲット層だった女性たちは共感し、一気に食卓への登場回数が増えた。『かもめ食堂』『めがね』『プール』など、小林主演の映画とのコラボにも注目が集まった。

「長く愛されるようなストーリーを作ろう」という制作陣の思いが生み出した、パンのCMとは思えぬ独特の世界観は、多くの女性の関心を誘った。今回のCMでBGMを歌うシンガーソングライターの二階堂和美さんもその一人。CMにクレジットは入らないが、「CMのファンだから」と喜んで手を上げた。

小林に続く深津絵里も、突然街に越してきてサンドイッチ屋をオープンさせたかと思えば、キッチンカーでいろんな土地でおいしいパンを振る舞い続ける。キッチンカーへの思い入れは、「CMにおいて自然の多い風景も重要な要素。それを取り入れる作品を作るためには、キッチンカーが良いアイコンになった」(CM担当者)からだ。

ブランドイメージを確立した小林、その後を引き継いだ深津、それに続く3代目の杉咲は、「小林さん、深津さんのようにナチュラルで凛とした魅力があり、余計なものは入れないというブランドメッセージを伝えるのにぴったり」(Pasco)とバトンを託された。

パンを振る舞う人から食べることを楽しむ人へ転換したことで、おいしそうに食べる姿も杉咲起用の決め手となった。正反対のアプローチで杉咲がもたらす新たな世界観が、小林・深津同様に女性の共感を引き出せるか。比較してみるのも面白い。

おいしそうに食べる姿も決め手になった

(ライター 北川聖恵)

[日経クロストレンド 2020年11月13日の記事を再構成]

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