神木隆之介 何が起こるのか…流れに身を任せてきた
神木隆之介インタビュー(上)
27歳にして、デビュー25周年を迎えた神木隆之介。子役から活躍し、当時のイメージは保ちつつも成長を遂げ、大人俳優へと自然とステージを移行することに成功した、稀有(けう)な俳優だ。これまでどんな道を歩み、何を思ってきたのか。今感じている、表現者にとって大切なものとは何か。四半世紀の軌跡と現在、今後のビジョンについて語ってくれた。上下の2回に分けて紹介する。
1999年に『グッドニュース』でドラマ初出演。以降、『涙をふいて』(2000年)、『ムコ殿』(01年)などのドラマで「天才子役」と呼ばれ、映画『妖怪大戦争』(05年)や『桐島、部活やめるってよ』(12年)、『屍人荘の殺人』(19年)など、各年代で話題作に主演してきた。さらに声優としての評価も高く、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』(01年)で声の出演を果たし、細田守監督の『サマーウォーズ』(09年)や、新海誠監督の『君の名は。』(16年)などでは主演も務めた。日本を代表する監督の作品に数多く携わり、ヒットに貢献したという意味でも特別な存在だろう。
日経エンタテインメント!の「タレントパワーランキング2020」では、男優部門で7位。20代では2位の人気を誇る。最近は新たな挑戦にも積極的で、6月からはYouTubeを開始。9月25日には、自ら企画に関わったアニバーサリーブックを発売した。
デビューは1995年、2歳のとき。この25年、どんな俳優人生をたどったのか。
「デビューのきっかけは、母親が子役の事務所に応募したことです。生まれたときに大きな病気をしたんですが、奇跡的に助かって。それからも体が弱かったので、生きている証が欲しい、映像や雑誌に載った姿を残したいって気持ちだったらしいです。
最初の仕事は、今も断片的に覚えていますよ。倉庫みたいなセットのおもちゃのCMで、『驚いた顔してね』と言われて、驚いた顔をしました(笑)。『良かったよ、できたね』って、帰りにおもちゃをもらってうれしかったです(笑)。そのCMが流れた時点で、親の願いはかなったから、『もう、やめてもいいんだよ』って言われたんです。でも僕は、現場で大人と話をするのが楽しかったので、『続ける』と言って。そのまま『続ける』と言い続けて今に至ります」
三池監督から学んだ"魂を削る"こと
「お芝居が面白いと思い始めたのは、小学3、4年生の頃。母に『あなたがやっているのは自分じゃなくて、役なんだからね』と言われて、『本番中は、違う人間なんだ』みたいな感じで、初めて気付いたんですよね。そして『妖怪大戦争』で三池崇史監督と出会ったんですが、ものすごく熱血でした。
同じセリフでも、心情とか状況で言い方が変わってくることを学んで。なかでも三池さんがこだわっていたのは、妖怪に立ち向かうときの『わーっ!』っていう声。『違うよ! もっとだ! 腹から声出して!』と言われ続けて、楽しかったですね。三池さんからは、『演じるというのは、魂を削ることなんだ』と教えてもらいました。そこからは『もっとやってやろう!』って」
11歳で挑んだ『妖怪大戦争』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。その後、思春期に入るが、子役ならではの「求められ続けることの難しさ」や、容姿や声が変化することに対して、不安はなかったのか。
「まったくなかったですね。子役のイメージってどうしてもありますよね。『あれ? 鈴木福くん、こんなに大きくなって』とか『芦田愛菜ちゃん、高校生!?』とか(笑)。でも僕はその頃、本当に何も考えてなかったです。驚くほど。『いただいた仕事を頑張るんだ』って、のんきに台本を受け取って、『今度はこんな役かぁ』なんて、楽しみながら取り組んできたので。
大変だったのは、マネジャー陣だと思います。みなさんのなかにある、僕の小さい頃の記憶をどれだけ上書きできるか。そのためにどんな作品をチョイスして、どう進んでいったらいいのか。本当に未知数だったから、たぶん相当難しかっただろうなと思います。その頃から、マネジャーさんのマネジメントという仕事を信頼していましたね。『この人たちについていけば、楽しい未来が待ってる』という感じで。出合う作品どれも有意義な経験になりましたし、等身大の学生から、特殊なキャラクター色が強いものまで、いろんな役ができて。
でも僕には、どうなりたいっていうビジョンがなさすぎて、面談みたいな場ではかなり怒られていました。『5年後、10年後の目標やビジョンある?』『ないです』『どうなってたいとか、ないの!?』『特には……』って(笑)。だって、何が起こるか分からないじゃないですか。流れに身を任せればいいと思ってたんですよね」
子役からの転換点になった作品としては、連ドラ初主演となった『探偵学園Q』(2007年)を挙げた。そのとき神木は14歳。
「少年から、青年の『せ』に片足を突っ込むぐらいかなって。『小学生だね』『子どもだね』っていうふうには見られなくなった役でもあるし、同い年の山ちゃん(山田涼介)も一緒で。これから青年になっていくんだっていう第一歩になった作品です。大塚恭司監督が、また厳しかったんですよ。同世代ばかりで現場が楽しくて、ふざけまくってたら、『マジメにやるぞ!』って。仕事に来てるんだという意識を最初に持たせてくれたのは大塚さんです。
大塚さんには、アニバーサリーブックの『おもて神木/うら神木』のインタビューに出ていただいたんですが、読んでびっくりしたのが、僕が現場ではしゃぎすぎて、セットに頭をぶつけて流血したって書かれていたこと。僕それ、まったく覚えてないんですよ。青年には程遠かったですね(笑)」
10代後半からは、倉本聰脚本・中井貴一主演のドラマ『風のガーデン』(08年)で知的障害を持つ少年役に挑んだり、堤幸彦監督の『SPEC』シリーズ(10年~)で特殊能力保持者を演じたりと、難役やクセのある役で新境地を見せる。
20代に入ると、大友啓史(17年『3月のライオン』)、大根仁(15年『バクマン。』)、新海誠(16年『君の名は。』)ら鬼才たちの映画にコンスタントに主演。「主役」には、どのような意識で臨んでいたのか。
「中井貴一さんに『何があっても主役は現場の中心に立っていなきゃいけないし、作品が世に出たときに、すべてを背負わなきゃいけない』と教えていただいたことがあって。僕、主役にあまりこだわりはないんですけど、そのお話は印象に残っています。
現場って、主役の人にすごく影響されちゃうんですよ。主役がピリピリしていたら、周りは冗談も言えない雰囲気になるし。だからこそ、僕はできるだけ砕けるようにしていますね。遊び心があるほうが、面白いものが生まれそうじゃないですか。そんな点でも、貴一さんはすごい。真面目なシーンではピリッと緊張感を持たせられるんですけど、楽しいシーンになると、本当に砕ける。
そして、『今日初めて現場に入りました』って人とも、各事務所のマネジャーさんとも絡んでいって、現場にいる全員と仲良くなるんです。"置いてきぼり"を1人も作らない。だからみんなついていこうと思える。自分が真ん中に立つときは、そんなふうになりたいなと思いましたね。
そして2番手、3番手のときは、主役の人に楽しく仕事をしてもらいたい。だから困っていたら、助けたい……って言うとおこがましいですけど、『手助けできることがあったら言ってください』っていう関係性を作ることが理想的。一方で、お芝居となれば『どれぐらい受け止めてくれるんだろう』って、勝負を仕掛けたりもしますよ。主役は周りに仕掛けられて、リアクションをする『受け身』のお芝居が多い。どんなボールも受け止められる、器の大きさも持ってなきゃいけないのかな、とは感じます。
僕、基本的には現場に入ったら、立場とか関係なく、みんな一緒だと思ってるんですよ。監督も含めて、一緒にいいものを作りたいっていう仲間。演出部、撮影部とか言いますけど、我々は『俳優部』で、どこが上とか下とか関係ないし、先輩とか後輩とかよりも、平等でありチームだなって」
現場でやってみないと分からない
「あと、25年やってきて重要だと思うのは、主役、脇役にかかわらず、自分の役を好きになれるかどうか。好きになれなかったら、追究しようという興味が湧かないですし。だから台本をもらったら、まず好きになれるポイントを探します。そして『こういう子なのかな』って、なんとなく性格を作っていくんですけど、そこからは、日常でいろいろ試すんですよ。しゃべり方を変えてみたりとか、その役に近い考え方をしてみたりとか。そうすると役に近づけるというか、愛着が湧いてくるんですよね。
その後はもう、フワフワっと現場に入ります。実際に演じてみないと分からないですし、自分が『これだ!』と思っても、監督が『違う』と言ったらボツですから。リハーサルでやってみて、あとは相談しながら監督と一緒に作ってもらいますね。
そういうやり方になったのは…『太陽』(16年)からかもしれない。何回台本を読んでも分からなかったんですよ。SFや異世界を描くことで知られる、劇団イキウメの前川知大さんの舞台が原作なんですけど、難しすぎて、『あ、この物語、1個も理解できないわ』って。
だけど改めて自分の役を見たら、分からないままでも成立するキャラクターなのかなと。だから、そのまま現場に入ったんです。そんなこと初めてでしたけど。そうして入江悠監督と役を作っていったら、演じながら役を理解できるようになっていって。現場でやってみないと分からないことってたくさんあるんだな、と強く感じた作品でした」
デビュー25周年を記念して自ら企画した2冊組書籍で、25周年俳優と27歳男性の"両神木"を総括。染谷将太、中村隼人、志田未来、本郷奏多との特別対談や監督・プロデューサーへのインタビュー、中井貴一、上戸彩らからの寄稿など、30組を超える著名人とアーティストが参加。さらに実母へのインタビュー&親子2ショット、神木本人へのロングインタビューもあり、公私にわたる四半世紀を俯瞰(ふかん)できる。また購入者特典として、オンライントークショーや、神木とビデオ通話ができる「個別お話し会」の実施も。DVD付き限定版4500円、通常版3000円(税込)。発行はアミューズ
(ライター 泊貴洋)
[日経エンタテインメント! 2020年11月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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