日本型雇用は限界 専門性高め、雇用流動化に対応を
ダイバーシティ進化論(出口治明)
非正規社員と正社員の待遇格差を巡る訴訟で、最高裁判決が相次いで出た。働き方について、日本ではメンバーシップ型とジョブ型の2種類があるように捉えられている。だが、世界を見ると仕事は基本的にジョブ型だ。ダルビッシュ投手に「今後の経験のために来年はショートを守ってくれ」などと誰も言わない。
メンバーシップ型は戦後の人口増と高度成長を前提にした日本特有の働き方だ。会社も成長するから人手が足りず、新卒で採用した若者が途中で辞めると困るから終身雇用という仕組みにした。社員を一生抱え込むならいろいろな仕事をさせたほうが都合がいいとゼネラリストを育てたわけで、ジョブ型に対する普遍的な働き方ではない。
社員の様々な雑務や役割をどう評価するかは難しく、横並びで係長、課長と昇進させた。一方、ジョブ型であれば自然と同一労働同一賃金に導かれる。皿洗いの仕事で採用されたとき、年配だからといって賃金が上がるはずはなく、むしろ洗うスピードが遅ければ賃金は下がる。
人口増と高度成長というメンバーシップ型雇用の前提条件はすでに崩れている。しかも、最近の新入社員で同じ会社に一生勤めようと考えている人はあまりいないという調査結果もある。転職するには自分に何ができるのかをはっきりさせる必要がある。労働の流動化と共に仕事は専門化し、ジョブ型が浸透することは明らかだ。
時代の変化を待っていても、そのスピードは遅い。だから今の会社や仕事に不満があったら、転職することを勧めたい。戦国武将の藤堂高虎によれば「七度主君を変えねば武士とはいえぬ」。変化の激しい時代には自分の能力を評価し、働きに見合う給与を出してくれる企業や経営者を次々探すことが大切だ。
ある大学病院の眼科での話だ。上司は患者の全人格を見るものだと考え、視力検査をスタッフに任せることを許さなかった。このため医師は視力検査から診察まで全てをこなさなければならず、忙しくて研究する時間が取れない。そんな中、納得がいかない1人の医師が病院を辞めた。すると他の医師も「辞めていいんだ」と半分くらいが次々と辞めていった。
結果、眼科は回らなくなり、検査はスタッフが担うことになった。辞めることで人は幸せになり、職場がホワイト化したわけだ。
立命館アジア太平洋大学学長。1948年生まれ。72年日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを務める。退社後、2008年にライフネット生命を創業し社長に就任。13年から会長。17年6月に退任し、18年1月から現職。『「働き方」の教科書』、『生命保険入門 新版』など著書多数。
[日本経済新聞朝刊2020年11月16日付]
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