コロナ禍のお笑い・アイドル SNS活用し新ビジネス
新型コロナウイルス感染症は、お笑いやアイドルなどエンターテインメントビジネスに大きな痛手となった。観客を入れたライブ活動ができなくなり、チケット収入やグッズ販売が落ち込んだ。一方で、これをきっかけにSNS(交流サイト)を活用したビジネスの開拓や、新しいライブ様式の模索も始まった。コロナに負けないエンタメの現場を追った。
大阪都構想の住民投票日だった11月1日、大阪・千日前のなんばグランド花月では、朝から当日券を求める行列が伸びていた。この日、吉本興業は全国14の直営劇場で観客の上限を80%まで増やしたのだ。4月に全公演を中止、6月から無観客で再開し、7月から40%程度まで観客を入れるなど段階的平常化の大きなステップだった。
久々にびっしり埋まった会場に登場した人気漫才コンビ和牛の2人は「今までは舞台から空席がたくさん見えた。今日はお客さんの笑顔がたくさん見えて、ああ戻ったなあという感覚」と話す。吉本新喜劇の出演を終えたすっちーさんは「隣が空席だと、お客さんも笑っていいのかなという感覚になりがち。隣に人がいれば笑いの連鎖が起き、私たちも乗せられる」と語る。
この日のなんばグランド花月では検温や消毒、追跡表の記入などの対策をし、舞台から2列目までは空席。マイクも登壇者ごとに消毒し、席での飲食を禁止するなど感染防止を徹底した。岡本昭彦社長は「舞台は私たちにとって何より重要。これからも感染防止を徹底し、お笑いを楽しんでほしい」と話した。
コロナ第1波で舞台がなかった時期に何もしなかったわけではない。4月に吉本は所属芸人が自宅からお笑いライブを配信する「#吉本自宅劇場」を開始。6月からは無観客ライブの配信をした。10月までの7カ月の売り上げは5億8400万円を確保。舞台収入には及ばないが、岡本社長は「劇場に足を運べないが、お笑いは見たいというニーズが大きいことを知った。コロナ後も舞台と配信を併存させたい」と意気込む。
お笑い以上にコロナの影響を受けたのがアイドル業界。ライブ会場では観客が一緒に歌い踊るため、汗や飛沫が飛び散る。終了後の握手会や即席写真の撮影会など、接触型ビジネスの最たるものだ。
老舗のサンミュージック(東京・新宿)は、インターネット配信だけを目的としたライブ「サンミュージック・ライブ・スタジオ」を始めた。本社の空き会議室をスタジオに改装、生バンドを入れ、歌をライブ配信する。第1回に登場したのはアイドルグループ、さんみゅ~のリーダーだった西園みすずさんだ。
9月26日土曜日の夜8時、100人近くが視聴料3500円のライブを鑑賞した。自宅でくつろぎながら楽しんでほしいと、西園さんはテンポのゆったりしたバラード曲を多く選んだ。企画立案の同社制作ディレクター、望月一人さんは「コロナで広がったファンとアイドルの心の距離を埋めたい」と話す。
オンライン初出演の西園さんの感想は「目の前にカメラがあるだけ。声が届いているか心配だったが、曲の合間に書き込まれる応援メッセージをみて安心した」。
さんみゅ~に所属していたアイドル、木下綾菜さんは、SNSをフル活用し、ファンとの距離を縮めている。7月の誕生日、昨年はバースデーライブで盛り上がったが今年は無理。代案は「オンラインデート旅」だった。SNSのSHOWROOMの機能を活用し、都内・浅草を浴衣姿で散歩する木下さんの映像をライブ配信した。
視聴するファンとSNSで語り合い、店を教えてもらって足を運んでみたり、散策中に買った土産を抽選で贈ったりした。木下さんは「チェキチャ」というSNS機能も活用している。3分間話をして、サイン入りのチェキ(即席写真)をもらえるSNS上のイベントだ。週末に開催し、累計参加者は100人以上。
人気デュオのゆずは9月27日から日曜日ごとに5週にわたりオンラインライブを配信した。曲や構成を毎回変えたため、連続視聴するファンも多く、延べ視聴者数は80万人を超えた。コロナがエンタメビジネスに打撃となったのは間違いないが、同時に新しいビジネスも多く生んでいるようだ。
(編集委員 鈴木亮)
[2020年11月14日付日本経済新聞夕刊]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。