斎藤さん 例えば、ひきこもっているだけでなく、幻聴、被害妄想などがあれば、統合失調症が疑われます。ほかに誤診されやすいものとして、発達障害があります。最近は、周囲とのコミュニケーションが難しいというだけで、すぐに発達障害ではないかと疑われる傾向にあります。しかし、ひきこもりの状態は他の精神症状と似ているだけに、誤診も起きています。見分けるには、経過の違いなどに目を向ける必要があり、専門家でも鑑別診断は簡単ではありません。

――そうなると、親は誰を頼ればいいのでしょう? 本人が病気と認めたがらない。そもそも会話が成り立たないような親子関係では、いきなり治療を受けさせるのは難しいですよね?

斎藤さん そうですね。病気かどうかを家族が見極めるのはまず無理なので、まずは家族相談を受けてくれる公的な相談機関に出向き、そこで診断についても相談する、というステップが望ましいでしょう(※詳しくは次回紹介します)。

そもそも、ひきこもりの対応(治療を含む)は、段階的に進められる必要があります。それには、最初の段階で、親御さんがこの問題について十分に理解し、正しく認識することがカギになると言っても過言ではありません。しかし、残念ながら、親御さんがよかれと思ってやってきたことの多くは、逆効果のことが多いのです。ひきこもり支援には「説得やアドバイスをしてはいけない」「就学や就労をゴールにしてはいけない」「結論ありきの会話をしてはいけない」「対話の継続を目標にする」など、いくつかのポイントがあります。これらが守られないと、当事者との関係はこじれて、修復不可能になってしまいます(※詳しくは次回紹介します)。

ひきこもり対応を難しくしているのは、情報の不正確さや、両親の認識の誤り、対応機関の乏しさの方にこそあるといえます。

悪質な支援ビジネスに手を出してはいけない

――斎藤さんは、スパルタ治療で治るとうたって高額な料金をだまし取る、悪質な支援ビジネスにも注意が必要とおっしゃっています。

斎藤さん ええ。最近になって、拉致監禁まがいの手法で、強制的に就労訓練をし、親から高額な料金を取った揚げ句、「治りませんでした」と言って家に帰らせるといった、詐欺まがいのトラブルも起きています。こうしたトラブルに遭わないためにも、親御さんは「専門家に丸投げすれば解決する」という発想を捨てることが大事ですね。

悪質な業者がうたいがちなのは「困ったお子さんをなんとかします」「預ければ必ず自立させます」「短期解決」といったフレーズ。そうしたことをうたって、親の弱みに付け込む業者は信用しないことです。子からすれば、悪徳業者に自分を売り渡した親は一生信用できないと感じます。親子関係が修復不可能になってしまいますから、当事者に寄り添う姿勢がない業者とは、予防的に関わらないことが一番です。

■こんなフレーズには要注意!

「困ったお子さんをなんとかします」

「預ければ必ず自立させます」

「短期解決」

◇   ◇   ◇

今は自立できている人でも、社会や家庭の事情によって、仕事を辞めざるを得なくなりひきこもることは十分起こり得る。だから、8050問題は誰にでも起こり得ることなのだと斎藤さんは言う。そのとき、家族はどう準備・対応していけばよいのか。次回は、適切なひきこもり対応と具体的な実践方法について詳しく伺っていく。

(ライター 及川夕子、図版制作 増田真一)

[日経Gooday2020年11月10日付記事を再構成]

斎藤環さん
精神科医、筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。1961年生まれ。筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。専門は思春期・青年期の精神病理学、病跡学、「ひきこもり」の治療、支援ならびに啓発活動。著書に『中高年ひきこもり』(幻冬舎新書)、『オープンダイアローグとは何か』(著訳、医学書院)、『新版ひきこもりのライフプラン「親亡き後」をどうするか』(共著、岩波ブックレット)ほか多数。テレビゲームやアニメなど、サブカルチャーにも造詣が深い。

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