「王冠をかけた恋」英ウィンザー公 衝動買いのコート服飾評論家 出石尚三

1929年2月、失業と寒さに悩む英国の炭鉱地方を視察するプリンス・オブ・ウェールズ殿下(左から3人目)=日本電報通信社撮影
1929年2月、失業と寒さに悩む英国の炭鉱地方を視察するプリンス・オブ・ウェールズ殿下(左から3人目)=日本電報通信社撮影
19世紀の英国からフランスへと広がったダンディズムとは、表面的なおしゃれとは異なる、洗練された身だしなみや教養、生活様式へのこだわりを表します。服飾評論家、出石尚三氏が、著名人の奥深いダンディズムについて考察します。



ウィンザーノットに名を残すファッションリーダー

イギリス国王としては歴代最短、1年に満たない在任期間で退位したエドワード8世、ウィンザー公爵。アメリカ人女性のシンプソン夫人と結婚するために退位を選んだ「王冠をかけた恋」で知られています。

そしてまた、美男子で多彩な趣味を持ち、メンズファッションに新たな定石をいくつももたらした、20世紀のファッションリーダーとしても有名です。ウィンザー公は王室よりも服装に興味のあったお方、ともいわれるほどで、なんとしても堅苦しい環境から逃れたかったのかもしれません。

そんな着道楽なウィンザー公の名前が冠されたメンズファッションの用語を、みなさんもいくつか目にしたことがあるでしょう。

その1つがネクタイのウィンザー・ノット。今も健在のスタイルです。ウィンザー・ノットは、ネクタイの結び目が太く、正三角形になるのが特徴で、一般的なプレーン・ノットよりも結ぶ手順が複雑です。

燕尾服の白いチョッキの丈を短くしたことでも知られた。米国生まれの夫人との結婚式(1937年6月)=UPI共同

もっとも、これが実際にウィンザー公のたしなんだノットかというと、必ずしも正しくはありません。実はウィンザー公のネクタイは、それ自体が特殊な構造でした。サヴィル・ロウのテーラーに頼んで、ごくふつうに結んでなお、正三角形の結び目になる形に仕上げてもらっていたのです。洒落(しゃれ)者であっただけでなく、アイデアマンでもあったわけですね。

また、夜間の正装である燕尾(えんび)服の下に合わせる白いチョッキ。この丈を短くしたのも、実は皇太子時代のウィンザー公でした。

燕尾服の場合、白チョッキを見せるか否かで大論争が巻き起こるほど、着こなしに対して多くの殿方がこだわりを持っています。そこで自分好みの短いチョッキを堂々とまとい、新たなセオリーとして定着させてしまったわけです。

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王室の常識破った既製服 「自由」の象徴か