企業も集まる任天堂「あつ森」 1位マリオに届く勢い
2020年ヒット商品ベスト30
日経トレンディと日経クロストレンドが発表した「2020年ヒット商品ベスト30」(詳細は日経トレンディ12月号に掲載)の3位に「あつまれ どうぶつの森」が選ばれた。約3カ月で国内累計販売500万本を突破した。
無限に成長し続ける「あつ森経済圏」を確立
電話やメールを超えた、別種のコミュニケーションツールの誕生と言っても過言ではない。その名は「あつまれ どうぶつの森」(以下、あつ森)。新型コロナによる外出自粛の中、老若男女がこぞってゲーム内に「集合」した。
3月20日の発売以来、あつ森はあらゆるゲームの記録を塗り替えていく。発売直後から「毎週売り上げが半減していかない、普通のソフトとは違う売れ方」(ビックカメラ)という快進撃を続けた。約3カ月で国内累計販売500万本を突破。6カ月連続で月間売り上げの首位を守った。圧倒的な売り上げスピードはシリーズ過去作と比べても、文句なしの1位。累計585万本を売り上げた「とびだせ どうぶつの森」の初動をあっさり超え、歴代出荷本数1位の「スーパーマリオブラザーズ」(681万本)にも届きかねない勢いだ。
任天堂は、ハード面でも「あつ森」ヒットの布石を打っていた。テレビ画面より、携帯性のあるゲーム機のみで楽しむ人が多いことを予想し、携帯型のみの「Switch Lite」を19年9月に発売。同機の売り上げは20年4月に急増し、4~6月にかけてはSwitch全体でも前年同期比166.6倍の568万台を売った。しかも、「販売したNintendo Switchおよび同Lite本体のうち、初日に『あつまれ どうぶつの森』が遊ばれた本体の数は全体の半数以上」(任天堂)。狙いが的中したといえる。任天堂の20年4~6月期の決算は、12年ぶりに過去最高の1447億円の連結営業利益をたたき出すに至った。
ゲーム中には数多くのアイテムが散りばめられ、収集してみたり、自らの家や島をカスタムしたりして楽しめる。そのため、資料性の高い攻略本もよく売れた。KADOKAWAと徳間書店から販売されている攻略本はいずれも70万部を超える大ヒットとなった。
人も企業も「あつ森」に集合
なぜ、あつ森はこれほど多くの人を引きつけたのか。
核を担ったのは、コミュニケーションを柱に据えた革新的なゲーム性だ。プレーヤーは、オンラインを通じて自分が作り上げた島に知り合いを招待したり、自ら出かけたりできる。ゲーム内では「タヌポータル」と呼ばれるスマホ風の端末を持つ設定となるが、これを手元のスマホとリンクさせて、チャットの文字の打ち込みができるのも秀逸だった。
これが、外出自粛で枯渇したコミュニケーション需要にピタリとはまり、相手の島に遊びに行くという、疑似的な外出に巣ごもりユーザーが飛びついた。
SNSとの相性も良く、芸能人などがプレー画面をTwitterなどで拡散。あつ森上で挙げた結婚式の写真をシェアする人もいるなど、拡散要素に事欠かなかった。
プレーヤーをつかんで離さない仕掛けもあった。自分のアバターが生活する島内では、時季ごとのアップデートによって、様々な遊びが追加される。例えば、夏には花火大会が島内で開催され、オリジナル花火を作ることができた。「無料アップデートでこれほど新要素を加えるゲームは珍しい」(「週刊ファミ通」の嵯峨寛子編集長)。
そして、「企業の参戦」という新現象も起きた。自分の服や建築物を自由に作り出せる「マイデザイン機能」に企業が注目し、自社デザインを反映した服などを販促のために無料配布。美術館は絵画をあつ森上に"公開"し、果ては米国大統領選にまで使われた。この現象が連鎖的にテレビでも報道された。「個人レベルでもテレビのようなマスレベルでも、勝手に宣伝してもらえるエコシステムができたことがヒットの要因」(エース経済研究所アナリストグループ部長の安田秀樹氏)だ。
初代「どうぶつの森」のパッケージにも「ひとりより ふたり ふたりより よにん よにんより…たくさん。」という、人をつなぐコンセプトがあった。簡単に会えなくなった世界の中に、「あつ森で会える」というもうひとつの平和な世界が誕生したのだった。
(日経トレンディ 澤原昇)
[日経トレンディ2020年12月号の記事を再構成]
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