日経ナショナル ジオグラフィック社

モラウスカ氏によると、最も小さなマイクロ飛沫は、肺の奥深くにある細く枝分かれした「細気管支」という場所で作られる。粒が小さければ小さいほど空気中を浮遊する時間が長くなり、遠くまで移動できる。

モラウスカ氏と研究仲間のグラハム・リチャード・ジョンソン氏は、息を止める時間や呼吸のペース、深さを変えるなどして、さまざまなパターンの呼吸で排出されるエアロゾルを細かく計測し、細気管支が収縮・拡張するときに、その表面にある「気道液」がせっけんの泡のようにはじけることを示した。これが今では、肺の奥深くで極小のエアロゾルが作られる主な仕組みであると考えられている。両氏は、この結果をまとめた論文を09年に学術誌「Journal of Aerosol Medicine and Pulmonary Drug Delivery」に発表した。

似たようなことは、気道の上の方でも起こっている。

「声帯は目に見えない速さで開閉します」と、米カリフォルニア大学デービス校でウイルスの伝播(でんぱ)について研究する化学工学者のウィリアム・リステンパート氏は言う。細気管支と同様に、声を出すと声帯が開閉して気道液がはじけ、極小の飛沫が作られる。せっけんで手を洗ったとき、両手を引き離すと泡がはじける様子を想像してみよう。

声帯は1秒間に約百回という高速で開閉し、それによってできた飛沫は吐く息に乗って外へ運ばれる。また、口腔(こうくう)内では舌が動き、目に見えるほどの大きな唾液の飛沫が作られる。

「よく、口から唾を飛ばしながらしゃべっていることがありますよね」と、リステンパート氏は言う。

エアロゾルは鼻からも排出されるが、最も多く排出されるのはやはり口からだ。さまざまな大きさの飛沫が混然一体となって雲のように口から勢いよく吐き出され、最初の数秒間の動きと拡散する方向が決まる。

「気体の雲は、飛沫を閉じ込めたまま部屋の中を移動します」と、米マサチューセッツ工科大学の流体力学者リディア・ブルイバ氏は解説する。

排出量を左右する要因は?

呼吸器でエアロゾルが作られる仕組みは誰でも一緒だが、実際にどれだけの量を体外へ排出するかは人によって大きく異なる。寒い日に、バス停に並ぶ人々が吐く白い息を見比べてみると、人によってその大きさが違うように。

気道の複雑さを考えれば、これは驚くことではない。モラウスカ氏は、香水の瓶を例にとって説明する。「香水の瓶は管が1本しかないので、1回押すと出てくる香水の量はいつも同じです。でも、気道には幅も長さも違う管が数多くつながっています」

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