カルビーは原則モバイルワーク 時短の母親が勤務延長武田雅子カルビー常務執行役員(上)

カルビーは7月から新しい働き方「Calbee New Workstyle」を始めた。オフィス勤務の800人が対象だという。「モバイルワーク」無期限延長・単身赴任の解除・通勤定期券代の支給停止が柱だ。同社は2014年に在宅勤務制度、17年に「モバイルワーク」制度を導入していたが利用者は一部にとどまっていた。今後はモバイルワークを原則とする。武田雅子常務執行役員CHRO(最高人事責任者)人事総務本部長に聞いた。

不要不急の出社をなくすための施策を同時に

1968年東京生まれ。1989年にクレディセゾン入社。営業推進部トレーニング課長、戦略人事部長などを経て、2014年人事担当取締役就任。16年には営業推進事業部トップとして大幅な組織改革を推進。18年5月、カルビーに入社。19年4月より現職

白河桃子さん(以下敬称略) 御社は、ペーパーレスやテレワーク制度などの働き方改革を、早くから推進してきたことで知られています。その旗振り役となった松本晃元会長にも、私は度々お話を伺ってきました。柔軟な働き方を進めた結果、どんな成果が表れたのか、先進企業ならではのお話を伺いたいと思います。きっとウィズコロナ対策によってさらに起こった進化もあるのではないでしょうか。

武田雅子さん(以下敬称略) ありますね。これまでもテレワークができる体制は整えていましたが、「テレワークをしたい一部の人が活用していた」というのが現状でした。4月の緊急事態宣言を受けて在宅勤務をせざるを得ない状況になってからは、在宅勤務が可能な人はほぼ全員がテレワークに移行。それに伴って、社内規定も全員対象に適応する形に改定しました。

白河 スムーズに移行できたのでしょうか。

武田 比較的スムーズだったと思います。というのは、私たちはもともと「チームメンバーが同じ場所に集まらない状態で働く」というスタイルに慣れていたんです。10年にオフィスを移転したのを機にフリーアドレス制を本格導入し、オフィスの部署ごとの「島」に集まらずに、遠隔地からインターネットをつないでコミュニケーションをするチャレンジを続けてきました。コロナによって、各人がアクセスする場所が自宅になったというのが、今回の変化のポイントです。

白河桃子さん(オンライン取材の画面から)

白河 半年以上経過した今、在宅勤務率はどのくらいを維持していますか。

武田 8月度に社内でとったアンケート(回答数446人)では、「社員のうち4分の3が、週の半分以上を在宅で働いている」という結果になりました。緊急事態宣言前は1~2割の水準でしたので、大きく変化しました。私たちは現物商品を扱う業種ですので、職務内容によっては毎日出社している社員もいますが、在宅勤務が圧倒的多数になりました。同時に、フルフレックス制度、オンライン名刺システム、オンライン契約システムなど、不要不急の出社をなくすための施策を同時に打っています。

白河 なるほど。ハンコがいらない働き方の推進ですね。

武田 私たちだけでなく、パートナー企業の皆さんの負担を減らすことをより重視していきたいと考えています。食品業界としては初めて「#取引先にもリモートワーク」キャンペーンに参加しました。

社員に求めるのは「成果」を出すこと

白河 素晴らしいですね。一緒に変わらないと元に戻ってしまいますから。そもそも御社がなぜ働き方改革をここまで本気で推進してきたのか。その狙いは何だったのでしょうか。

武田 やはり一貫している目的は「成果」です。働く時間や場所の選択肢を増やし、個々の事情に合った働き方を選べる環境を整えることで、「しっかり成果を出してください」という目的意識で社員とは合意しています。その目的意識はずっとブレていないと思います。

白河 09年から10年間、改革の旗振り役となった松本晃元会長にはたびたびお話を伺う機会をいただいたのですが、「オフィスなんかに来るな。オフィスに来たからって成果は出ないんだから」とおっしゃっていたのが印象的でした。10年以上かけて柔軟な働き方を進めてきたことで、現場の皆さんからはどんな反応が聞こえてきますか。

武田 今回のコロナ禍でよく聞かれたのは、「家族や友人から『カルビーって社員思いのいい会社だね』と言われました」「恵まれた環境で働いているのだと、あらためて実感しました」という声です。緊急事態宣言が解除されてからは、テレワークを解除して一斉出社に戻したり、オンラインで勤務状況を常時監視したりといった会社もあったようですが、当社はそのようなことはしません。ワーキングマザーの社員からは「近所のママ友は続々と出社勤務に戻されているのに、私は在宅勤務を維持できている。子育てと両立しやすくて助かる」と言っていました。

白河 なるほど。どの会社も一斉に在宅勤務になった状況下で、新しい働き方に対する柔軟性やそれに向ける経営の本気度の格差がより明確に見えるようになった。その違いに、社員の皆さんが気づくきっかけが生まれたというわけですね。

武田 信頼をベースにした「性善説マネジメント」を重視する姿勢が、今まで以上に共有されるようになったと思います。つまり、「サボっているんじゃないか?」という前提に立つのではなく、「ちゃんとやっていますよね? もしできていないのなら、なぜうまくいかないかを考えて解決するために、いつでも相談に乗ります」というスタンスでマネジメントしていくことが、社内でより強く意識されるようになった。これは大きな副産物だと思っています。社員の皆さんからも、「信頼してもらえるなら、成果を出せるように頑張ります!」「家族と過ごせる時間が増えて感謝しています。採用戦略上も非常にいい効果があると思います!」といったうれしい声が集まっています。

テレワーク一辺倒ではなく、あくまで個人選択

白河 出社前提の働き方に戻したがる勢力も多い中で、テレワーク前提の働き方を維持するというのは、社員の皆さんに向けた強力なメッセージになるのですね。

武田 そう思います。ただし、テレワーク一辺倒というわけではなく、あくまで個人選択であるという点も強調しています。「在宅と出社をうまく組み合わせながら両方を使いこなし、個人あるいはチームにとって一番成果が出る働き方をデザインしてください」と伝えているんです。例えば、チームに新人が入ってきたときの教育や、現物商品を見ていただきながらの商談などでは、対面のほうが成果が出る場合も多々ありますから。

白河 要するに、自律的な働き方を応援するという姿勢である、と。

武田 おっしゃるとおりです。その結果、自然発生的にうれしい変化も生まれてきていて、これまで短時間勤務を選択してきたワーキングマザー社員の方々がフルタイムに戻す動きが活発化しています。「在宅で働けるなら、通勤時間を省ける分、保育園のお迎えのために急ぐ必要もないよね」と。特に人事から働きかけてはいないのに、4月以降、11名がフルタイムに復帰し、5名が2時間短縮から1時間短縮に切り替えるという実績が生まれました。これはうれしい想定外でした。

白河 柔軟な働き方が可能になると時短社員が減る。これは私が修士論文を書いたテーマでもあります。素晴らしいですね。社員の皆さんがそれぞれ自分にとって最適な働き方を見つけていこうとしていることがよく分かります。

武田 人事部で毎月アンケートを取っているのですが、それも会社が状況を把握する目的というより、社員の皆さんが当事者として自分自身の働き方を振り返るきっかけをつくるために実施しています。「前月と比べていかがですか?」「新しく始めた工夫はありますか?」という聞き方をしていて、その回答から上がってきたノウハウは社内で共有しています。

白河 例えばどんなノウハウが出てくるのですか?

武田 「オンライン上でできるコミュニケーションツールの勉強をしています」とか「自由に雑談できるグループをチーム内で立ち上げました!」とか、いろいろ出てきますよ。最近では「マインドフルネスの勉強会を部内で始めました」という回答もありました。

在宅勤務の悩みごとには人事が対応

白河 部内で勉強会をするのはいいですね。在宅勤務が続くと、孤独感やさみしさを感じるという問題はやはりあちこちで聞かれますので。

武田 もちろん、在宅ならではの問題点はあると思います。けれど社員の声を聞く限り反対派はほとんどいませんし、「在宅勤務っていいな」と少しでも感じるのであれば、課題をゼロにする工夫を続けていくべきだと考えます。実際、アンケートでも「解決しづらい問題はありますか」と聞く設問があって、さらに「その件について相談したいですか」とも聞いているんです。イエスの回答があれば、人事のスマートワーク推進担当から個別に連絡をして解決の手助けをしています。

白河 どんな困りごとが上がってくるのでしょう?

武田 話してみるとすぐに解決できることが多いんです。例えば「在宅勤務をしようにも、自宅が狭くて働きづらい。できれば自転車通勤で会社に行きたいんだけど……」という悩みでした。そのときは「ぜひ出社してください」の一言で解決です。「自宅のWi-Fiの調子が不調なので有線でネットをつなぎたい」といった設備面の問い合わせもありましたが、「有線の場合は、この方法でお願いします」と指定をして、これも即時解決。深刻な問題はほとんどないんです。

白河 困りごとを聞ける窓口が用意されているのはいいですね。御社の場合は、テレワーク導入も早かったので、他社でよく聞かれる「上司がオンライン会議システムに不慣れで、1人だけ会議に入れなかった」みたいなリテラシー格差の問題はあまり起きないのでしょうか。

武田 あまりないですね。それはなぜかというと、2つの理由があって、1つは「分からないことは素直に聞き、立場に関係なく教え合う」というカジュアルなコミュニケーションがもともとあるというカルチャーです。当社でもオンライン会議に最初から全員がスムーズに移行できたということでもなく、チームに1人か2人は不慣れな人がいるのが通常だったと思います。そういうときも「こうしたら、できるよ」「ねぇ、こういう機能あるのを知ってる?」「へぇー、知らなかった!ありがとう」と雑談のような雰囲気で教え合える雰囲気があるんです。

白河 フラットなコミュニケーション文化あってのことですね。それも長くダイバーシティー推進を実践した成果の一つではないでしょうか。

武田 それもあるかもしれませんが、創業期から社長以下役職者を「さん付け」で呼ぶ文化が浸透していたことは大きいと思います。また、“リテラシー格差”を解消しているもう一つの理由としては、当社特有の「新たな課題に対する前向きなチャレンジ精神」が考えられると思います。例えば、人事主導で約500人を対象に評価者研修を実施したとき、私よりも年配のシニアがとても鮮やかに会議システムを使いこなしていて。「いつのまにあんなテクニックを習得したの?」と誰もが驚いたわけですが、ご自身で勉強されていたわけです。「研修内容はもとより、彼の意欲が刺激になりました!」という反響が寄せられました。また、今年はファミリーデイ(社員の家族を招待する社内イベント)をオンラインで開催したのですが、場所の制限がない分、海外の工場までつないで一斉に開催することができたんです。工場のカメラを回していた社員の映像配信スキルもものすごく上がっていて感動しました。新しい環境変化に直面したときに、柔軟に対応できるように努力して勉強する。そんな社風が功を奏した気がします。

来週公開予定の後編では工場勤務の社員などへの対応、社内のコミュニケーション、新商品の開発などについて引き続きお聞きします。

(文:宮本恵理子)

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