トランプ流発声の秘密技

同じようなフレーズを何度も繰り返すのは、トランプ流演説術の柱といえる。選挙スローガンをはじめ、「必ず取り戻す」「私は約束する」のような単純なメッセージを言い続け、熱気でくるむようにして聴衆をまとめ上げていく。ロジックに頼らず、エモーショナル(感情的)に訴えかけるトーク術は中身に乏しいが、聴衆が求めているのは興奮や共感であると考えれば、トランプ流は的を射ている。ビジネストークでは数字に象徴される「理」が重んじられる傾向にあるが、「情」への目配りも忘れないほうがいいだろう。

形容の手口はシンプルだ。何かを褒めるときは、「すごい」を意味する「tremendous」の一点張り、逆にくさすときは「the worst」と決まっていて、しかもそれを2度繰りかえす。聴衆の脳を単純なイメージで染めていくテクニックはなかなか見事だ。知的な人ほど、同じ表現を避けて、多様な言い回しを選ぼうとしがちだが、繰り返しがイメージを定着させる効果はあなどれない。

結局のところは「やると言ったらやるんだ」といった浪花節的な物言いにすぎないのだが、強いリーダーシップを期待する聴き手は「その意気を買った」「ガッツがある」と支持を表明してしまう。彼らは「政治プロ」の理路整然たるご高説が嫌いなのだろう。聴き手のマインドを意識しないと、まっとうな論理すら「偉そうな頭でっかち」と誤解されてしまうリスクをはらむ点はビジネスシーンでも頭に入れておく価値がありそうだ。

田中角栄より後の日本の歴代首相で、しゃべりが巧みで、大衆的な人気が高かったのは、小泉純一郎氏だったと記憶する。「大きな声、限られた語彙、端的な語り口」はトランプ氏とも共通している。ただ、小泉氏になくて、トランプ氏に目立つのは「耳をふさぎたくなるような悪口」だ。人格攻撃や人種差別にも踏み込んだ「口撃」を、日本人はあまり好まないが、米国では時に「タフだ」「正直」と喝采を浴びる。自国民の心性を見切ったかのような振る舞いもトランプ政権を呼び込んだ一因といえそうだ。

年齢を重ねると、声がかすれたりしぼんだりしやすくなる。トランプ氏は74歳。その年齢で、あれだけ各地で演説を続けられるのは、すごいことだ。もともと喉が強いのかもしれないが、実はトランプ流の発声にも秘密がある。

トランプ氏は一見、延々と大声を出し続けているように思われがちだが、実はそうでもない。力強い言葉は、多くの場合、ごく短く、せいぜい2秒以内。3秒を超えて、大声を出し続けることは避けている。ロングトーンを使わないのだ。声を絞り出さずに済む発声を心がけることによって、喉へのダメージを防いでいるようにみえる。

この発声法を生かすには、ボディーアクションとの連動が重要になる。彼の演説を見ていると、大声を張り上げた、そのすぐ後に、両手を広げて、「どうだ、みんな、すごいだろう?」と言わんばかりに、全身で聴衆にアピールすることが多い。その間、声は出していない。表情と身振りが代役を務めている。こうした非言語的表現に時間を使い、その間、喉をいたわっている。

これらのテクニックを見渡していえば、トランプ流の話術はなかなかにすごい。戦略的だともいえるだろう。

ただし、見習わないほうがよい点もいっぱいある。事実や科学を無視する反知性的な物言いは、ビジネスパーソンの信頼を損ないかねない。下品な態度は、品格を疑わせる。「上から目線」や勝手な断定、ねちっこい口調なども、相手を不快にさせそうだ。

最大の欠点は、うそを積極的に使うところかもしれない。主張がころころ変わり、身勝手な言い逃れに走るのは、リーダーへの信頼を揺らがせてしまう。そうした不適切なしゃべりが今回の選挙結果を招いたのだとすれば、やはり彼の位置づけは「反面教師」が妥当そうだ。しかし、3大特質を「聞き取りやすい声、選び抜いた言葉、明解な主張」とポジティブに言い換えれば、リーダー層の心得として生かしようがある。これが意図せざるトランプ氏の「レガシー(遺産)」となるのだろうか。

※「 梶原しげるの「しゃべりテク」」は毎月第2、4水曜掲載です。


梶原しげる
 1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。

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