平易な言葉で、ゆっくり無遠慮に語る

アメリカの小学生でも大枠を理解できそうなほど平易な言葉選びもトランプ流の特質だ。あまり英語が得意ではない米国人にとって、この分かりやすさはありがたいことに違いない。ちなみに英語が苦手な私でも、トランプ氏の演説なら、大半を理解できるのは、この「語彙制限」のおかげだ。先に挙げた大きな声と、一語一語の間を十分すぎるほど開ける長い「間」の取り方も、聞き取りやすさを高めてくれる。

前回の大統領選挙で、メディアの予想を覆す勝利を得た理由の一つは、この「少ない語彙で、ゆっくり大きな声でしゃべってくれる」という点を、有権者が「自分たちの目線で語りかけてくれる」ととらえたからではないか。クリントン氏に代表されるエリート層の持って回った言い回しや専門的な用語にうんざりしていた有権者はトランプ氏の平易な語り口に共感を覚え、票を投じた可能性がある。

端的な物言いもトランプ流の際立った持ち味だろう。時に非礼とも挑発的とも映る見立てやたとえは、強烈なメッセージ性を帯びる。直近の選挙でも、開票結果に不満を鳴らして「民主党が選挙を盗んだ」と言い放った。こういったあからさまな表現は米国の知識層が嫌うものだ。「不誠実だ」とか「疑問を禁じ得ない」といった婉曲的な物言いを選ぶのがこれまでの常識だった。

しかし、トランプ氏はあえて「幼児語」に近い「いかさま」「いんちき」「泥棒」「弱虫」のような、直感的に意味が分かる表現を好む。こういった無遠慮な言葉は政治の世界では「禁じ手」に近い扱いだっただけに、有権者にはかえって新鮮に響いた節がある。

誰でも経験があると思うが、自分が知らない言葉を使われると、のけ者にされたような不快感を覚えてしまいがちだ。「私のほうを向いていない」という不満が首をもたげる。しかし、スッと頭に入ってくる言葉遣いの場合は、自然と共感を覚えやすい。「この人は偉ぶっていない」「気さくな人だ」という好印象にもつながる。専門用語や難解表現を使いがちな人は気をつけたほうがいい。

もちろん、よその国民を根拠もなく犯罪者扱いしたり、ライバルを認知症と決めつけたりするのは、明らかなマナー違反だ。敵をつくるだけで、益がないどころか、人道的に許されないだろう。しかし、有権者の内心の奥深くに巣くう「本音」にささやきかける戦術は、投票所のブースでたった1人になったとき、実力を発揮する。事前の世論調査が今回も当てにならなかったことは、このトランプ流「悪魔のささやき」が効果的だったことを裏付けているようにみえる。

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トランプ流発声の秘密技