Men's Fashion

スーツで躍動 「クライミングの自由と楽しさ伝えたい」

SUITS OF THE YEAR

スーツ・オブ・ザ・イヤー2020受賞者インタビュー(5)楢崎智亜さん

2020.11.10

「スーツ・オブ・ザ・イヤー2020」は今年も独自の挑戦を続け、際立つ存在感を示した5人を表彰した。新型コロナウイルスが世界中で猛威をふるい、多くの既成概念がリセットされるなか、新たな日常の基盤となる価値観を提示し、人々を勇気づけ、常に未来に目を向ける受賞者の方々のインタビューを連載する。一人ひとりの個性と響き合う、メッセージが込められたスーツにも注目していただきたい。




スポーツ部門

楢崎智亜さん

プロフリークライマー

18歳でプロに 「逃げ道を作りたくなかった」

鍛えあげ、絞りあげ、研ぎ澄まされた感覚が宿る肉体。その均整のとれた輪郭が、上質な布地をまとい、くっきりと目の前に立ち現れる。一切の無駄をそぎ落としたスタイル。アスリートはかくもスーツを格好良く着こなせるものか――。取材時、楢崎智亜さんの立ち姿の美しさに、思わず見とれてしまった。

シューズを履き替え、ボルダリングのデモンストレーション。ストレッチの効いたスーツが肉体の躍動と一体化し、自由自在に壁の中を動き回る。普段はありえない格好だけに、余計に「超人」ぶりが際立つ。

スポーツクライミングは、やればやるほど、背中が大きくなり、ウエストは細くなるという。逆三角形のシェイプされた体には既製品は合わず、スーツはほとんどがオーダーだ。

注目が増して、スーツを着て人前に出る機会が増えた。鍛えられた体にスーツが似合う。「紺や黒が多いので、こんなグレーのスーツは持っていないです。いい感じですね」

もともと器械体操が好きでやっていた。ところが、ある日、「技をするのが恐くなってしまったんです。それで練習に行けなくなった。今だったら、そういう時の“抜け出し方”をたくさん持っていますけど、まだ小さかったので、どうしても抜け出せず、やめてしまいました」。

何か他のことをやりたい。そう思っていた矢先に出合ったのがクライミングだった。一足先に兄が取り組んでいたスポーツだ。

やりはじめて感じたのは、とにかく自由で楽しい、ということ。クライミングはスタートとゴールは決まっている。そこに到達するまでの道筋は、自分で考えていい。「遊び心、というわけじゃないのですが、ここのホールドを飛ばして行ってみよう、とか、昔から好きにやっていました。そんな取り組みが、今、生きていると思います」

目標を見据え、そこに至るまでの過程は、自分に合った行き方を選ぶ。そんなクライミングの「自由」な魅力にとらわれ、高校卒業後18歳でプロクライマーになった。その決断はこれまで生きてきた中で、一番のチャレンジだったかもしれない、と振り返る。