ピラミッドからアマゾンまで 歴史で学ぶ経営の仕組み『マネジメントの文明史』

マネジメントの起源を古代までさかのぼり、進化の過程を解説した
マネジメントの起源を古代までさかのぼり、進化の過程を解説した

古代エジプトのピラミッド建設事業には、人を動かし目的を達成するファラオ(王)たちの戦略があった。今回紹介する『マネジメントの文明史』は、企業が存在するはるか前までさかのぼり、マネジメントの進化をたどった経営論の入門書だ。「経営とは何か」を歴史に学ぶことで、未来のビジネスを考えるヒントを得ていただきたい。

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武藤泰明氏

著者の武藤泰明氏は、1955年広島県生まれ。東京大学大学院(修士)修了後、三菱総合研究所を経て現在、早稲田大学教授。専門はマネジメント。日本ファイナンシャル・プランナーズ協会常務理事、笹川スポーツ財団理事、鉄道・運輸機構特別顧問も務めています。主な著書に『ビジュアル経営の基本』『すぐわかる持ち株会社のすべて』などがあります。

ピラミッド建設に経営の原点

ピラミッドを建設したファラオたちにマネジメントの考え方はあったのでしょうか――。古代、ナイル川は定期的に氾濫していました。自然条件の制約を受けて、ピラミッド建設は農閑期に行われていたようです。ファラオは、農産物の生産活動を妨げたくないと考えたのでしょう。農繁期の農民が栽培・収穫に専念すれば、王朝は税収を確保できます。建設工事の季節を限定することで、仕事のない時期の農民に副業収入の機会を提供することにもなりました。ピラミッド自体は収益を生むわけではありませんが、目的遂行のために人的な資源戦略を採用した点で「マネジメントと呼べる」と著者は評価しています。

本書は7つのパートに分かれています。パート1と2では、古代ギリシャの植民地経営やハンザ同盟、東インド会社などを取り上げました。中近世の経営について、多くの歴史エピソードを交えながら面白く解説していきます。多くは中学・高校の歴史で学んだ話ですが、経営学の視点から眺めてみると違った景色が見えてきます。

パート3からは、産業革命以降を取り上げます。分析の対象は3つの国に絞っています。産業革命発祥の地である英国と、後発資本主義国のドイツ、そして政治経済のスーパーパワーになった米国です。ここからは、定説に疑問を投げかけている部分や、少し斜めからものごとを見ている箇所をピックアップしてご紹介しましょう。

産業革命を支えた高賃金

英国の産業革命を支えたのは、蒸気機関などのテクノロジーと工場労働者です。かつての通説では「土地の囲い込みが農民を農地から追い出し、行き場のなくなった農民が都市に出て工場労働者になった」というものでした。そこでイメージされるのは「食い詰めた人々が労働力として集められた」という図式です。しかし、著者は「高賃金だから産業革命が起きた」と異を唱えます。

経営者だけでなく労働者も豊かだったのが当時の英国でした。つまり、産業革命が成功した要件の一つである「労働力」とは何かをちゃんと説明すると、1つめは「高賃金の労働力」という意外なものになります。
常識的に考えるなら、ある国で産業が発展する要件が労働力であるという場合は、ほとんどが「低賃金」の労働力を指します。しかし、英国はそうではない。むしろ賃金水準が高かったことによって、機械化を進めざるを得ませんでした。マイナス要因が発展をもたらす。この本の中に、すでに何度か出てきた光景です。
人手にかわって機械に生産を委ねるというのは、どの国でも誰かが発想しそうなことですが、たとえばフランスでは労賃が安く、手工業のままのほうが生産コストが低かったので機械化が進みませんでした。
さらに言えば、インドは植民地なので綿工業ではなく綿花生産地、つまり農業に産業発展ルートを逆戻りさせられたと書いたのですが、それだけではありませんでした。すこし後、18世紀末ころには、英国産の綿布のほうがインド産より安かったのです。インドの低賃金に英国の生産機械の生産性が勝ったと言うことです。
(第12章 「囲い込み」が工場労働力を生み出したのではないらしい 135~136ページ)
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