僕が演じるマックスは落ちぶれたプロデューサーで、僕がこれまでやってきた役とはだいぶ感じが違います。ブロードウェイで演じていたネイサン・レインはちょっと太ったおじさんという感じでしたし。一方で、やり方こそとんでもないのですが、ショービジネスの世界がものすごく好きで、もう一花咲かせたいと願っている思いはよく分かります。俳優として周りのいろんなプロデューサーを見てきているので、違和感なく演じられます。

ミュージカル『プロデューサーズ』のキャスト。(左から)佐藤二朗、木村達成、木下晴香、井上芳雄、吉沢亮、大野拓朗、春風ひとみ、吉野圭吾

プロデューサーはやっぱりみんな個性が強いですから。生の舞台やカンパニーはトラブルがいつ起きても当然という状態です。誰かが病気したとか、役を降りるとか、ケンカしてるとか、ギャラを上げてほしいとか、お客さまが入らないとか、いろんな問題が常に起こっていて、それを顔色も変えずにさばいていく。多少なりとも二枚舌がないとやってられない。ウソは言わないけど、本当のことも言わないみたいな(笑)。マックスも極端ではあるけど、ショーを成立させるためならどんな手段もいとわないというところは、まさにプロデューサーのかがみです。

振り付けはブロードウェイの踊りそのまま。オリジナル振付のスーザン・ストローマンの個性が出ていて、どれもちょっとずつ難しくて素晴らしい。400本以上の動画をブロードウェイのスタッフが作ってくれて、日本の振付チームと協力して振りを教えてくれました。稽古には、米国のスタッフもリモートで参加しました。ブロードウェイは劇場の閉鎖がずっと続いていて(2021年5月まで閉鎖の予定)、みんな仕事がない状況だから、喜んでくれました。今、日本でショーができているのは信じられないし、本当にうれしいって。動画の撮影には、オリジナルキャストをはじめブロードウェイの舞台に出ていた人が集まってくれたそうです。ナチスの軍人に見立てた人形を使う振り付けがあるのですが、その人形も今はどこでも使ってないからと送ってくれて、本物を使わせてもらっています。そんなブロードウェイとのコラボレーションもありながらの日本版上演です。

歌は1968年のオリジナル映画を監督したメル・ブルックスが、ミュージカル化にあたって作詞・作曲をしています。ブロードウェイミュージカルらしい曲がたくさんあって、芝居から自然に歌にいけるように上手に作ってあります。オーケストラが入るとさらに気分が高揚します。オリジナルの映画もかなりぶっ飛んでいますが、コメディとして面白いし、ネタはきわどいけど、パロディーで笑い飛ばすことでナチスの批判にもなっている。それがミュージカルになることで、バカバカしさがパワーアップして、コメディとして素晴らしい作品になっています。

笑いは常に100%の力でリアクション

僕は『ミー・アンド・マイガール』『ウェディング・シンガー』といったミュージカルコメディーをやってきましたが、このジャンルには独特の感覚があって、特に真ん中の役をやるときの感じを思い出しています。主人公はほとんどの場面に出ていて、強烈なキャラクターなのですが、物語が進むにつれて、さらに変な人がどんどん出てきて、中盤くらいからはリアクション芝居というか、変な人をどんどんさばいていく。最終的には自分で物語を引き取るのですが、とにかくずっと舞台上で激しく動いている。アスリートのような感じです。笑いって理屈じゃないところがあるから、手加減するとばれるので、常に100%の力でリアクションするしかなくて、すごくエネルギーがいる。それを、できる限り力まずに、みんなのキャラクターを受け止める。その感覚が久しぶりによみがえってきました。歌が主体のミュージカルやドラマチックなお芝居とは全然違う感覚です。

笑いを生み出すのは、とにかく大変。稽古場は笑いにあふれていますが、やる方は懸命だし、滑るかもしれないから勇気もいる。でもみんな必死で、何かに取りつかれたように毎日違うネタをやっている人もいます。福田組が初めての若手俳優は、「もう倒れそうです」と言いながらも、頑張っている。そうやって新しいものを創ることって戦いだし、すごくエネルギーがいることだけど、だからこそいとおしいと思える毎日です。

井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第81回は2020年11月21日(土)の予定です。


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