日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/11/23

気候変動とパンデミック

19年、世界保健機関(WHO)は薬剤耐性菌を人類の健康に影響を与える10大脅威のひとつに挙げ、今や簡単に治療できるようになった結核や淋病すらも制御できない世界へ逆戻りしてしまうのではとの懸念を示した。

世界的に家畜や人間の医療現場で抗菌薬を乱用したことが、スーパー耐性菌を誕生させたといわれている。だが、ワシントン特別区にある疾病動態経済政策センター(CDDEP)の設立者で代表者のラマナン・ラクスミナラヤン氏は、気候変動によって真菌感染症が将来さらに拡大するだろうと予測している。

米国微生物学会の学術誌「mBio」に昨年掲載された論文では、「カンジダ・アウリスはおそらく気候変動によって誕生した初めての真菌感染症かもしれない」との見方が示された。

感染症にかかると、人間は防御反応として発熱する傾向がある。菌は熱に弱いためだ。だが、カンジダ・アウリスのような真菌が地球温暖化により高温の環境に適応すれば、その防御反応も効かなくなる恐れがある。つまり、将来的には既存の真菌が拡大するだけでなく、新たな真菌感染症が現れるかもしれない。

「抗生物質が効かない細菌が増えているように、抗菌薬が効かない真菌も人類を脅かすようになるかもしれません」とラクスミナラヤン氏は警告する。多剤耐性結核菌や、北米を中心に症例が急激に増えているクロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)などの強力な細菌は、米国で年間280万件というスーパー耐性菌感染症の99%を占め、死者はおよそ3万5000人に上る。

以前から薬剤耐性を育む温床と言われてきたインドは、今や新型コロナ感染症流行の中心地となっている。チャウドリー氏の研究室でも、約半数の職員が最近の検査でコロナ陽性と判定され、2人が死亡した。個人的にも大変な状況に置かれているなか、カンジダ・アウリスの脅威に人々が気付き始めていることを、チャウドリー氏は歓迎している。

「多くの人が、インドの問題なので自分たちには関係ないと考えていました。これまで私はたったひとりで研究し、大変な思いもしましたが、今は世界がその研究に取りかかっています。真菌感染症は、決して無視してはいけない病気です」

(文 SOPHIE COUSINS、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年10月29日付]

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