日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/11/23

コロナ重症患者が院内で感染か、10人中6人が死亡

11年のこと。インド、ニューデリーの研究所で働いていたアヌラダ・チャウドリー氏のもとへ、複数の血液サンプルが送られてきた。市内にある2つの病院の集中治療室と新生児室で、謎の真菌感染症が広がっているということだった。

デリー大学ヴァラブバイ・パテル・チェスト研究所の医真菌学教授であるチャウドリー氏は、真菌の正体を特定し、治療薬を提案するよう依頼された。分析結果を見たチャウドリー氏は、首をひねった。

「カンジダ・アウリス? 何それ? と聞いてしまいました」

チャウドリー氏が知らなかったのも無理はない。カンジダ・アウリスが初めて報告されたのは、そのわずか2年前だった。ある患者の耳の中から発見されたので、ラテン語で耳という意味を持つ「アウリス」と名付けられた。

何よりも驚いたのは、真菌感染症に真っ先に使用される治療薬フルコナゾールが、チャウドリー氏の血液サンプルにはまったく効果を示さなかったことだ。13年に、チャウドリー氏の研究チームがこの件に関して論文を発表しているが、その後カンジダ・アウリスはフルコナゾールやその他のアゾール系薬剤に耐性を持っていることが明らかになった。また、別の主要な2つのタイプの抗菌薬すら効かない場合もある。

現在チャウドリー氏は、デリーの集中治療室に入った新型コロナの重症患者のなかで、カンジダ血症が認められた患者を研究している。カンジダ菌が血液に入り込んで起きる疾患だ。

チャウドリー氏らが医学誌「Emerging Infectious Diseases」の20年11月号に発表した小規模研究の結果では、15人の患者のうち10人にカンジダ・アウリスが見つかった。いずれも院内で感染したとみられている。

全ての血液サンプルがフルコナゾールに耐性を持ち、血液から分離した株のうち4つは別の抗菌薬アムホテリシンBも効かなかった。最後の望みであるエキノカンジンは、インドでは入手が難しい。最終的に、6人が死亡した。

チャウドリー氏は、新型コロナと同じく、カンジダ・アウリスの感染拡大を抑えるためにも、検査と接触者追跡が重要であると訴える。カンジダ・アウリスの検査は、皮膚の表面をこするか、血液または尿を採取して行う。陽性と判定された患者では、3種類の抗菌薬の効果が調べられる。

こうしてスーパー耐性菌による死者数をある程度特定することは可能だが、院内感染しやすいという点が問題を複雑にしている。病院では、患者は既にコロナなどほかの病気にかかっているため、死因がその病気によるものなのか、薬剤耐性菌によるものなのかを判断するのは難しい。

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