
中東のレバノンで、同国最古のワイン圧搾機(圧搾所)が発掘された。古代フェニキア人が広範囲にわたってワインの交易を広く行っていた新たな証拠として、注目に値する発見だ。
ワインの発祥地はフェニキアではない。ジョージアでは、約8000年前のワイン醸造の証拠が発見されている。しかし、オリーブオイルやアルファベット、グラスなどとともに、ワインの醸造技術を古代の地中海沿岸地域に広めたのはフェニキア人だ。ワイン文化は全世界に広まり、現在もフェニキア人の影響は生き続けていると言える。

2020年9月15日付で学術誌「Antiquity」に発表された論文によると、ワイン圧搾機が発掘された場所は、レバノンの沿岸都市シドンから南に約8キロ離れたテル・エル・ブラク遺跡だ。少なくとも紀元前7世紀には使われていたと推測される。当時、レバノンはフェニキア人の領土だったため、フェニキア最古のワイン圧搾機ということになる。
発掘現場からは大量の種子が見つかっており、近くのブドウ園から運び込まれたブドウを人の足で踏みつぶしていたことを示唆している。ワイン圧搾機の保存状態は極めて良く、耐久性のあるしっくいが塗られており、約4500リットルの液体を入れることができた。
つぶしたブドウの果汁や、それに果皮や果肉を混合した「マスト」は大きな桶(おけ)に集められ、アンフォラという特徴的な形の陶器に移された後、そのまま発酵、熟成させて、運搬された。
ワイン圧搾機は泥レンガでできた住居4棟とともに発掘された。テル・エル・ブラクは紀元前8~6世紀に存在したフェニキア人コミュニティーの一部で、輸出用ワインの醸造が行われていたと、研究チームは推測している。
「フェニキア人にとって、ワインは重要な交易品でした」と、テル・エル・ブラク考古学プロジェクトのコーディネーターを務める、ベイルート・アメリカン大学(AUB)の考古学者ヘレネ・セイダー氏は話す。氏によれば、シドン地方のワインは特に有名で、古代エジプトの文献でも言及されているという。