日経ナショナル ジオグラフィック社

先行研究においても、左右の足跡の大きさの違いは、重いものを運んでいた証拠ではないかと言われてきたが、ほとんどの場合は臆測にすぎなかった。今回の調査には、もう少し根拠がある。「この特定のケースにおいては、途中で子どもの足跡が唐突に現れることです」。ハタラ氏はそう指摘する。

この旅がいつ行われたのかを推定する際には動物の足跡が役立った。北へ向かう足跡が残されてから、マンモスとオオナマケモノがその上をまたぎ、さらに旅人が南へ戻るとき、彼らの足跡を横切った。この重なりからわかるのは、泥が完全に乾くまでの数時間の間に、全てが起こったということだ。現在では絶滅しているこれらの動物と人間の足跡が同時に見つかったことで、この古代の旅がおよそ1万年前の出来事であることがわかった。

彼らもまた「私たちと同じ」

17年、妊娠中だったレイノルズ氏の自宅に、夫であるベネット氏から、一連の足跡について知らせる電話がかかってきた。「彼は大喜びでした」とレイノルズ氏は回想する。

2人が特に心引かれたのは、旅人が子どもを連れていたことだ。「とても小さな足跡は、本当に予想外のものでした」。レイノルズ氏らはこの子どもの足跡を、まだ見ぬ娘に付けようとしていた名前にちなんで「ゾーイーの足跡」と呼んだ。

この冒険者について判明していることは少ない。何をしに、どこへ向かっていたのか? そして、子どもはどうなったのだろうか?

足跡を残した人は道をよく知っていたようだとレイノルズ氏は言う。別の家族や狩猟グループが暮らすキャンプへの道だったのかもしれない。「迷った様子がありません」と氏は指摘する。しかし、旅の終点はわかっていない。足跡は現在の米軍ホワイトサンズ・ミサイル実験場の中へ続いており、研究者たちは立ち入ることができないためだ。

足跡に記録された行動は、そう驚くものでもないかもしれないとハーコート=スミス氏は言う。人類は子どもを運ぶものだ。「全ての文化においてそうですし、類人猿においてもそうです」。しかし、そこには親近感を抱かせるものがあることも事実だ。

「彼らも私たちと全く同じだったと改めて気付かされます」と氏は言う。「日々感じるストレスは違うかもしれません。私たちの周りにマンモスはいませんから。けれど、私たちがこの地を歩くのと同じように、彼らも歩いていたのです」

チームは今もホワイトサンズ国立公園で調査を続け、遠い昔にここで暮らした人々の姿を詳しく描き出そうとしている。「知り得るとは思いもしなかった古代の暮らしや、他の動物や土地に対する当時の人々のあり方が見えてきます」とレイノルズ氏は語る。いずれはさらに多くの物語が、そして間違いなく多くの謎が、この土地から発掘されることになるだろう。

(文 MAYA WEI-HAAS、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年10月19日付の記事を再構成]

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