Men's Fashion

スーツもデータも一人ひとりを輝かせるもの

SUITS OF THE YEAR

スーツ・オブ・ザ・イヤー2020受賞者インタビュー(1)宮田裕章さん

2020.11.6

「スーツ・オブ・ザ・イヤー2020」は今年も独自の挑戦を続け、際立つ存在感を示した5人を表彰した。新型コロナウイルスが世界中で猛威をふるい、多くの既成概念がリセットされるなか、新たな日常の基盤となる価値観を提示し、人々を勇気づけ、常に未来に目を向ける受賞者の方々のインタビューを連載する。一人ひとりの個性と響き合う、メッセージが込められたスーツにも注目していただきたい。




イノベーション部門

宮田裕章さん 

慶応義塾大学医学部 医療政策・管理学教室 教授

ファッションで知った「刹那の楽しさ」

「固定観念にとらわれない」が宮田裕章さんの信条だ。「物事は変わるものだ、というある種の諦観と覚悟を持って事象に向かい合う。それは、ファッションでずっと体験してきたことなんです」

直前まで「これはないよな」と思っていたアイテムが突如、かっこよく思えたり、ちょっと前まで良かったスタイルが急にダサくなってしまったりするのがファッション。「刹那的すぎて嫌だという人もいると思います。でも、そこに楽しさがある」

医療分野でのビッグデータ活用をいち早く唱えてきた。くしくもその研究の成果が遺憾なく発揮されたのが、新型コロナ感染症の実態を早期に把握するため、通信アプリのLINEを使って厚生労働省と実施した全国調査だった。

「これからの服は、手元に来てから廃棄にいたるまでのサイクルも含めて表現していくものになりつつありますよね」

本来はPCR検査をするのが正しい把握の仕方のひとつ。「それではお金も時間もかかって現実的ではない。ならばアンケート形式で集めることができるのではないかと、LINEやアマゾンに声をかけました」。どんどん変化する現実の中で、固定観念にとらわれず柔軟に考えていく姿勢が、コロナ対策に役立った。

得られたデータと実際の陽性者数の間には相関がかなりあり、これは信頼できる、と手応えを感じた。「実際、テレワークでは陽性者は少なく、マスクを外して人と接する機会が多いと、どーんと感染が増えたことも分かった。日々をどう過ごしたらよいのか、道しるべが示せた」

データは平均値を出すための雑なマーケティング、ととらえられがちだ。だが、そうではない。「一人ひとりを捉えて、そして誰も取りこぼさないのがデータの力」だと信じる。「給付金の配分でも、データがあれば、いたみに応じたサポートができたはずです」

データを駆使して、一人ひとりが輝ける社会変革を促すのが目標。ファッションだってそうあるべきだと感じている。