枠にとらわれないユニークな才能をもつ子どもたちに学びと活躍の場を与えてきた「異才発掘プロジェクトROCKET」出身の研究者が、このほど起業した。ROCKETに参加した小学生から高校生までの子どもたち130人以上と向き合ってきた東京大学先端科学技術研究センター協力研究員の福本理恵さん。約5年間の経験の中で、子どもたち一人ひとりに合う学習ツール開発の必要性を痛感したのが会社設立のきっかけという。そんな福本さんが見通すこれからの学びのカタチについて聞いた。
――東大先端研と日本財団が2014年から共同で展開してきたROCKETは、今年6年目ですね。どのような子どもたちがいるのでしょうか。
「異才発掘という名前がついているので、いわゆる学業のできる『天才児』の集まりと世間では思われがちですが、少し違います。特定の分野に詳しくて没頭して研究している子とか、音楽や映像制作の才能をもった子とか、非常に多様な子が来てくれました。国内外で多くの体験プログラムや各界の専門家に直接会って話を聞く機会などを提供してきました。例えば『氷で火が起こせるか?』という子どもの声から、実際に雪国に行って実験したり、イノベーションについて考えるために、インドまで連れて行ったりしたこともありましたね。好奇心を起点にとことんまで探求を深めていく場がROCKETです」
――そのような環境の中で、何が見えてきたのでしょうか。
「ROCKETに集まっていた子どもたちは実に多彩でしたが、(友達や学校になじめないなどの理由で)傷ついている子も多かったんです。そこで思い知ったのは、一人ひとり学びやすさとか幸せの感じ方は異なるということ。例えば、感覚が過敏な子や、ほかの子たちとは何かに取り組むペースが違う子がいるということです。ROCKETは一人ひとりのニーズに合わせた運営をしてきましたし、ユニークな子たちがお互いを受け入れ合う場です。『初めて気が合う友達に出会えた』と言ってくれることも多かった。それでも、もっと一人ひとりの感覚やペースに合わせられたらと思うようになってきました」
――それで起業を思い立ったのですか。
「そうですね、そんなことを考えていたタイミングで新型コロナウイルスの感染が拡大しました。オンラインでつながる世界観が全世界的に広がるのを見て、これからは学び方が変わると直感的に思いました。これまでオンラインに消極的だった学校も、今回ばかりはオンラインに移行せざるをえなくなりましたよね。その結果、宿題を生徒一人ひとりに合わせた内容にするようなことが可能になりました。ROCKETから外に出て、もっと広く子どもの学びを支えたいと思うようになり、個別最適化学習のツール開発にチャンレンジするSPACEという会社を立ち上げました。起業にあたっては、軽井沢風越学園理事長の本城慎之介さん、横浜創英中学・高校校長の工藤勇一さんがアドバイザーに就任してくださいました」