最強の剣士である9人の「柱」の一人「炎柱」の「煉獄杏寿郎」(C) 吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

一方、映画の中での登場シーンは少ないものの、TVアニメシリーズでは第1話から登場し、大きな存在感を示しているのが鬼殺隊の「水柱」の剣士・冨岡義勇(とみおかぎゆう)です。

冨岡は、第1話から炭治郎の可能性を見いだし、元柱である師匠の鱗滝左近次(うろこだきさこんじ)のもとへと送り出すことで、炭治郎を進むべき道へと導いてくれます。冨岡は、煉獄の明朗快活さとは対照的に、ほとんど笑顔を見せることはなく、言葉数も少ないため、感情を表に出すことはあまりありません。ですが、冷静かつ無駄のない戦い方で勝負をつける相当な実力の持ち主です。

その冨岡の上司力が描かれているのはTVアニメの第22話です。鬼である禰豆子をかばった規律違反で鬼殺隊の本部に連れていかれた炭治郎は、裁判にかけられることになり、そこで、元柱であり炭治郎の師匠でもある鱗滝が裁判に向けて送った手紙の内容が明かされます。その手紙には「炭治郎と禰豆子を認めてほしい。もしも、禰豆子が人に襲いかかった場合には、竈門炭治郎および鱗滝左近次・冨岡義勇が腹を斬ってお詫びいたします」と記されていました。その時、炭治郎は冨岡が命をかけて自分たちきょうだいを守ってくれようとしている事実を知ります。

その後、第26話で炭治郎が手紙への感謝の言葉を伝えると、冨岡は、「礼なら仕事で返せばいい。俺たち鬼殺隊の使命は鬼を討つ。以上だ」と、クールにその場を去ります。

このように、煉獄杏寿郎と冨岡義勇は、一見、タイプが正反対のようですが、「責務や使命を果たす」という信念や、後輩たちを見守りつつ育成する姿勢は、共通しています。

そして、登場人物はおのおの鬼殺隊の剣士になるまでの過程において、葛藤や苦悩を抱えてきています。もちろん、炭治郎をはじめ他の柱たち、さらには鬼たち側にも、その場に至るまでの葛藤や苦悩の物語が存在するのですが、煉獄と冨岡は、自分たちが対面してきた理不尽さにのみ込まれて落ちることなく、同時に後輩たちものみ込まれて落ちることがないように、チームとして組織としての在り方を常に意識しているのです。

実際のビジネス社会においても、上司たちのこの姿勢は大切です。今や、コンプライアンスとデジタル化が進むなかで「お前の手柄は俺の物、俺のミスはお前の物」という旧態依然とした上司は淘汰される時代を迎えています。

一人の仕事人として自身の術(スキル)を磨くために鍛錬し続けることを基本としつつも、組織全体として向上するためには、部下や後輩たちを育成していく必要があります。それは部下や後輩たちのためでもありますが、自分自身のためでもあります。

彼らのミスは当然、上司に跳ね返ってくるからです。チームや組織を強くすることは己のためでもあります。

「鬼滅の刃」では、鬼側の筆頭に鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)という強敵・ラスボスが存在し、鬼たちを統制しています。いわば、ワンマンオーナーが支配する悪徳巨大企業のようなものです。

この悪徳組織と戦い続けるためには、自身だけでなく鬼殺隊という組織そのものを強くしなくてはなりません。そしてそれは、多くの人たちが幸せに暮らせる世界へとつながっています。

一方、そうした崇高な意識を持っている上司たちのもとで、鍛錬を積むことのできる炭治郎は組織の一員として恵まれているのかもしれません。「心を燃やせ」と激励してくれる炎柱の上司、「仕事で返せ」と冷静に鼓舞してくれる水柱の上司。おのおの見本となる上司から身になるメッセージを託されているのですから。

ただ、理想的な人物が炭治郎に目をかけてくれるのは、彼自身が「修行→実践→課題の発見→修行→実践→課題の発見……」と、この繰り返しを絶え間なく続けているからこそでもあります。自身の進歩や成長と比例して接する人物のランク(能力・人間力)も上がっていくものです。

コミックではすでに完結している物語ですが、ぜひともTVアニメ第2シリーズや劇場版が登場することを願ってやみません。あの色彩豊かな映像と迫力あふれる音楽、キャラクターを等身大で演じている声優さんたちによるセリフから、様々な示唆を与えてくれるメッセージをくみ取り続け、ビジネスの肝心な場面でも、「全集中!」できる力を養いたいものです。

鈴木ともみ
 経済キャスター。国士館大学政経学部兼任講師、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。日本記者クラブ会員。多様性キャリア研究所副所長。テレビ、ラジオ、各種シンポジウムへの出演のほか、雑誌やWeb(ニュースサイト)にてコラムを連載。株式市況番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重TV・ストックボイス)キャスターとしても活動中。近著に「資産寿命を延ばす逆算力」(シャスタインターナショナル)がある。

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