信念を育んだリクルート時代

伊豫氏の情熱と行動力をもってすれば、研究者としてのキャリアを積んだ後、専門技術を社会へ役立てるために起業するという道もあり得ただろう。キャトログには大学院時代に専攻したバイオロギングの技術が使われており、「ある種、自分の専門領域に舞い戻ってきたともいえる」と話す。

だが、好奇心で一歩を踏み出し、ビジネスの世界で奮闘した経験は、伊豫氏の起業家としての信念を育むことにつながった。

リクルート時代に印象に残った仕事をたずねると、真っ先にその口を突いて出たのは「初仕事」の思い出だった。人材系サービスの営業に携わった2年間で、今でも自身の支えになっている2つのことを学んだという。

1つ目は、目標達成に対する「腹の決め方」だ。リクルートでは入社直後、研修を終えたばかりの実務未経験の新人を、新規顧客の開拓営業に向かわせてその成績を競い合わせる伝統があった。とにかくがむしゃらに動いて、根性で目標を達成しようとするタイプが有利なようにも思えるが、伊豫氏はやや異質だった。

伊豫氏は「猫様」と呼ぶほど、猫への愛情が深い

「決めた目標は必ず達成すると、腹を決める。それは、単に根性で押し切るのとは違います。むしろ冷静になって、達成するためにやるべきこと、やらなくていいことを考える。『後は行動するだけ』という状態にできるよう、道筋をつくるんです」

たとえば、すべての営業先に同じ量の力を均等に注ぐのではなく、自分と相性のいい相手を早めに見極め、重点的に攻める。営業職に本配属されてからも、1年を通して「種まき」期と「刈り取り」期を自分なりに判断しながら、戦い方を工夫した。

「ギリギリで勝つより、徹底的に勝ちたい」性格だ。「確信を持って勝つには、要領を得ることが大切だと思っています。それは誰に教わったわけでもなく、自分の考え方の癖のようなもの。営業職時代にそれで結果を残せたことで、私なりの正攻法として自覚した部分は大きいです」

2つ目は、誠実さを貫くこと。新人時代、営業初日で初受注を獲得した伊豫氏は、その顧客に言われた言葉を今でも大切にしている。

「他の社員も足を運んでいたはずなんです。では、なぜ私から、受注してくれたのか。あるとき尋ねてみたら、返ってきた言葉はすごくシンプルで、『誠実だったから』でした。包み隠さず、『できることはできる、できないことはできない』と明快に伝えることは、誰にでもできることではないのだと教えられた意味は、起業した今、ますます強く実感するようになりました」

事業の意義を広く世の中に知ってほしい、投資家から評価されたい――。スタートアップ企業の場合はなおさら、そういう意識が強くなりやすい。「自分を大きく見せたいという誘惑に負けてしまうことの危険は、常に自覚しておいたほうがいいと思うんです。よいものをつくっていれば、顧客は必ずついてくる。その基本を一番大切にしています」

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「好き」だから強い