管理職への昇進、頑張れるか不安作家、石田衣良さん

作家。東京都生まれ。2003年「4TEENフォーティーン」で直木賞。動画サイト「ニコニコ動画」「ユーチューブ」で『大人の放課後ラジオ』を配信中。(https://j.mp/ncotoraji  https://j.mp/otoraji)。
作家。東京都生まれ。2003年「4TEENフォーティーン」で直木賞。動画サイト「ニコニコ動画」「ユーチューブ」で『大人の放課後ラジオ』を配信中。(https://j.mp/ncotoraji  https://j.mp/otoraji)。

51歳の会社員です。その気がなかった管理職への昇進を伝えられました。断れないので頑張りたいとは思うのですが……。どのようにモチベーションを上げればいいでしょうか?(大阪府・50代・男性)

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小説家という究極の自由業に就いて25年、最大のメリットは好きでもなく、尊敬もできない上司の下で働かなくても済むことだと、痛感しています。会社勤めのあなたなら、わかりますよね。ソリのあわない上司ほど、会社を憂鬱にさせる存在はありません。

広告会社で働いていた若き日々、僕が考えた最悪の上司像は、次のようなタイプ。業務上の能力や人望が決定的に欠けるのに、やる気だけは抜群に豊富という地獄のような組みあわせです。この手の上司(決してすくなくはなかった!)は、無能さを気合いとやる気で埋めあわせ、部下にも実際の業務遂行能力より、仕事に対するやる気と献身を求めてくる。いやはやうざくてたまりませんでした。大好きなのはチームワークと会社への忠誠心というお決まりの熱血パターンです。

その類の熱い上司は上級者に向かって自分のやる気をアピールするのも得意な人が多かった。上と下への態度を使い分け、すぐに強い者に尻尾を振るので、部下からすると信頼関係を築くのがはなはだしく困難なのです。正直に白状しますが、その手の管理職はチームが一番という割に、ミスを犯した部下を身を挺(てい)して守るなんて姿勢はこれっぽちもない人がほとんど。いや、思いだしただけで、何人かの顔が浮かんで嫌な気分になるものです。いやはや悪役を書くときのために、いい勉強をさせてもらった。

さて、あなたはやる気は全然ないのに、会社から昇進を命じられ困っている。そういう人こそ、自分の上司に持ちたいという若手は案外たくさんいるものです。少々出世したくらいで腕まくりして、部下にもやる気を強要するような器の小さな人間など、誰も上司に欲しがりません。

大石内蔵助のような昼行燈(あんどん)も結構。やる気など周囲に見せず、のらりくらりと日常業務をこなし、うまく上司をごまかし、風通しのいい環境で部下を動かしましょう。気を使う分量は上に1下に2くらいがちょうどいい塩梅(あんばい)です。

どんな仕事でもそうですが、これはというプロジェクトを成功させるには3~4年はかかるもの。どんなポジションだって、一つか二つ重要な案件を片づければ、それでお役御免なのです。本気の全力はそういうときのためにとっておきましょう。いやあ、僕だって小説やる気なんてぜんぜんありませんよ(うそ)。

[NIKKEIプラス1 2020年10月31日付]


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