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在来種を使ったそば、濃厚な香り広がる 東京・西麻布

2020/11/9
一番注文が多い「せいろそば」
一番注文が多い「せいろそば」

江戸の昔からなじみ深い食べ物、そば。創業100年以上の歴史ある高級店からワンコインですむ立ち食いまで様々なスタイルでそばを楽しむことができるが、品種にまでこだわって食べることはなかなかないかもしれない。2018年11月、西麻布にオープンした「蕎麦おさめ」は品種改良される前の在来種にこだわってそばを打つ、新進気鋭の職人の技が光る店だ。

Summary
1.注目される新世代のそば職人の店
2.挽(ひ)きから打ちまですべてにこだわった日本古来の品種、在来種のそば
3.オトナのたしなみ。極上の酒と至福の料理で過ごす「そば前」のひととき

場所は六本木通りの喧騒(けんそう)を背に、路地を曲がってすぐに現れるシックなビルの2階。ひっそりと隠れ家のような雰囲気がある。店名「おさめ」は店主の名前に由来し、「成功を収める」や「業を修める」などさまざまな意味合いを込めて名付けられた。

長いカウンターに8席、そのうしろにテーブル席6席の店内は一見そば店には見えないモダンな雰囲気。和の落ち着きとスタイリッシュさが共存しており、粋なオトナの時間が過ごせそうだ。

店主の納剣児さんは父親が洋食のオーナーシェフだったこともあり、早くから料理人を目指していたという。調理専門学校時代に専門料理をやろうと心に決め、卒業と同時にそば職人の世界に入った。市ヶ谷の「大川や」などでの修業を経て、神楽坂(当時、現在は千歳烏山に移転)の「東白庵かりべ」では2番手を務めるなど活躍した。

料理人を目指した時から独立することを考えていた納さん。「こんな店を作りたいと明確なイメージを持つようになり、そのタイミングで独立しました」そのイメージの中心にあるのが、在来種を使ったそばだ。

在来種は日本古来の品種で、日本各地の気候風土に根付いて栽培されてきた

在来種のそばとは交雑していない日本古来の品種で、日本各地の気候風土に根付いて栽培されてきた。個性が豊かで風味や香りが強いのが特徴だ。納さんは数年前、静岡県にある「手打ち蕎麦 たがた」で在来種に出合った。

「小粒なんですが香りが強く、そこで食べたそばのおいしさが忘れられませんでした。昔から改良されずに育てられてきたそばはいわば日本そばの原点。その伝統を守り、おいしさをたくさんの人に知ってもらいたくて、在来種をメインにした店にしました」

「おさめ」では日本そばのルーツと呼ばれる長崎県の対馬在来と、長野県の乗鞍在来を中心に福井県の丸岡在来や福島県、鹿児島県など日本全国の在来種を扱っている。この中から、その日の状態を見て2~3種類を選び、そばを打っている。

毎日、必要な分量だけ石臼で挽く。在来種は実が小さいだけでなく、粒の大きさもまちまちで、粒をそろえるために常につきっきりで様子を見なければならない。また、そばはわずかな湿度の変化にも影響される。そのため、そば打ち部屋には加湿器を入れ、一定の湿度を保つようにしている。

「そば打ちというと力強く打つというイメージがありますが、そばにストレスをかけたくないので、あまり練らず、優しくゆっくりとのばしていくようにしています。在来種が持つ力強さを削らないようにするためです」(納さん)

打ち上がったそばは細く端麗で見ほれるほど美しい。卓越した職人ならではの技だ。

店で用意されているそばは殻(から)を抜いて挽いた粉で作る十割そば(100%そば粉で作る)の「せいろ」と、殻ごと挽き、小麦粉を外一(そといち)で混ぜた(そば粉10に対して小麦粉1割を混ぜる)「玄挽き」の2種類。上品な風味の「せいろ」に対して、「玄挽き」は草やナッツのような穀物感があり、野趣あふれる味わいだ。

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