新作はDJで ブシロード会長のマーケ戦略、核は音楽
ゲーム、アニメ、ライブ……。大規模なメディアミックスで次々と人気IP(キャラクターなどの知的財産)を生み出してきたブシロードが新たなタイトル「D4DJ」を立ち上げた。「SNS(交流サイト)時代、消費者は勝ち組にしかくみしない」「IPは垂直立ち上げしかあり得ない」という同社木谷高明会長のマーケティング戦略は独特だ。
ブシロードの新たなメディアミックスタイトル「D4DJ(ディーフォーディージェー)」。ガールズバンドの「BanG Dream! (バンドリ!) 」、歌劇の「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」(レヴュースタァライト)に続き、同社が題材に選んだのはDJだった。
コロナ禍の中でも、キャスト(キャラクターを演じる声優)によるライブやアニメ、大規模な交通広告などで認知度を高め、2020年10月25日には満を持してスマートフォン向けゲーム『D4DJ Groovy Mix』(グルミク)をリリースした。次々ヒットIPを生み出す同社の木谷高明会長に、同作で展開するマーケティング戦略について聞いた。
音楽が最もスマホを生かせるコンテンツ
――バンド、歌劇と来て、今度はDJ。いずれも"音楽"が重要なファクターになっていますね。
「僕の中で、『バンドリ!』『レヴュースタァライト』『D4DJ』は『音楽3部作』と位置付けているんですよ」
「今のゲームはどうしてもスマホが軸になりますが、スマホというのは、これ1つでゲームができて、映像が見られて、音楽が聞ける。イベントに行けば写真が撮れるし、SNSでは仲間と情報交換もできるデバイスです」
「これら"できること"を並べてみると、音楽を活用したコンテンツを核にすることがスマホを最も効果的に使える道だと気づいたんです」
――中でも、DJを題材に選んだきっかけは?
「『レヴュースタァライト』の企画が動き始め、次の題材を探していたとき、F1のシンガポールグランプリの会場で開催されたライブを見たんです。米国の音楽ユニット、ザ・チェインスモーカーズが出演していたのですが、彼らがクイーンの『伝説のチャンピオン』をやったとき、会場にいた子供から高齢の客までが一体となって盛り上がりましてね。『みんなが知っている曲を流すとこんなに盛り上がるんだ』と驚いた。そこで、『次はDJだ』と思ったんです。DJならバンドよりも幅広い曲が扱えて、幅広い年齢層にアピールできる。2017年のことです」
――「D4DJ」のアニメやライブ、ゲームで扱う曲は、『タッチ』や『銀河鉄道999』といったアニメ主題歌、中森明菜の『DESIRE -情熱-』、相川七瀬の『夢見る少女じゃいられない』といった懐かしの曲から、『徹子の部屋のテーマ』や『警部補・古畑任三郎のテーマ』『ルパン三世のテーマ』のような人気番組のテーマ曲まで多彩です。
「世代を超えた名曲や話題曲をたくさん取り入れました。誰しもが聞いたことがあるような曲がたくさんあるので、ぜひ注目してほしいですね」
――いろいろな曲を題材にできるのは、先におっしゃったDJならではの利点ですね。
「ええ。ただ、難点ももちろんあります。DJというと1人もしくは2人組のイメージがあって、キャラクターコンテンツになりづらいことです。キャラクターを売りにするなら、ある程度人数がいたほうが展開しやすい」
「そこで『D4DJ』では、DJのほかに歌ったり踊ったり、楽器を弾いたり、VJ(ビデオジョッキー)をやったりするメンバーを加え、4人組のユニットにしました。それを6グループ作ったのです」
――バンドの中にDJがいるのではなく、あくまでもDJを中心に他のメンバーがいるという構成ですね。
「『D4DJ』はDJが中心です。その上で、例えば『バンドリ!』などブシロードの他のIPのバンドとコラボするライブをしてもいいと思っています。バンドとDJが交互にステージに上るライブは国内外で開催されていますよね。バンドの演奏時はがっと盛り上がり、DJがプレーする時間はリラックスするような。DJだからこそ、今後いろんな展開が期待できると考えています」
新規コンテンツで大ヒットは困難な時代に
――スマホ向けゲームの『グルミク』は20年10月25日のリリースに先駆けて事前登録を受け付けましたが、登録者数はどれくらいですか?
「10月に入って80万人を超え、その後は1週間に2万~3万人というペースで増えました。リリース前に100万人を突破することは、企画当初から想定していました。というのも、僕は『D4DJ』で『生涯ベストスコア』を狙っているんですよ」
――DJという題材だからこその期待ですか?
「そうです。幅広い年齢層に仕掛けられるDJだからですね」
「悲しいことですが、僕は子供向けコンテンツの新規立ち上げはかなり難しいと考えているんですよ。子供たちは、かつてのテレビのような力がないと取り込めない。友達同士で同じコンテンツを話題にするような状況がないと、なかなか浸透しません。でも、今は少子化の時代。テレビの力が落ちる一方で、スマホに触れる年齢はどんどん下がっていて、小さいときからみんなYouTube(ユーチューブ)を見ている」
――子供向けは「ポケモン」や「ドラえもん」「仮面ライダー」など、シリーズものが強いですしね。
「新規のコンテンツを仕掛けるのが難しいから、子供たちはすでにあるもののバージョン違いを楽しむことになるんでしょう」
「そんな中、芽があるのが10代、20代です。若い人は新しいものが好きですから、彼らに刺さるものにするしかない。この層が起点となって大ヒットする作品も定期的に現れます」
「ところが、20代は層が薄いのです。20代と40代の人口を比べると40代が1.4倍です。しかも40代の約4分の1は独身で、20代の2倍以上の金額をエンタメに使っていると言われます。トータルで考えると、20代と40代のマーケットサイズは1対4ということになる」
――若い世代に刺さる新しいものを作っても、それだけではヒットにならないと。
「ええ。国内のゲームのヒット作を見ても、昨今は昔のタイトルばかりが目につきます。20年前、30年前のタイトルをスマホ用に焼き直したものや、既存のシリーズをバージョン違いで出したものなどです。もちろん例外もありますが、結局のところは30代後半から40代、団塊ジュニアに受けたものしかビジネス的に大ヒットしていないということです」
――そうなると、若い世代だけでなく、40代にも受けるものを作らなければなりませんね。
「10代、20代にファーストアプローチをしながら、30代後半から40代も味方につけるにはどうしたらいいか。トータルで考えると、僕の中には音楽というアイデアしかありませんでした」
「DJを題材にすれば、最近の曲やオリジナル曲はもちろん、1980年代、90年代、2000年代のヒット曲も入れられる。いろいろな世代にアプローチしやすく、結果、大きな塊にできる可能性があります」
「実際、20年10月28日にはTBS系列全国ネットで『D4DJ presents CDTV 特別編 みんな歌える!神プレイリスト音楽祭』という番組を放送しました。CDTVの番組内では懐かしい楽曲が紹介されるのですが、合間にD4DJのテレビCMが流れました。こうした取り組みにつなげられたのも、DJという題材ならではでしょう」
ユーザーは勝ち組にくみしたい
――「D4DJ」はゲームに先行してキャストによるライブを開催し、アニメの放送も決まりました。ブシロードのIPはメディアミックスが定石になっています。
「アニメやゲーム、ライブなど何か1つをやってみて、それが成功したら次の展開へというのが一般的な流れかもしれません。ですが、そんな覚悟じゃもう成功しないと僕は思っているんですよ。当たったら次、それも当たったら次と進む企画も世の中にはありますが、全てが成功する確率は低いと思います」
「僕が企画するときは、最初から全部やるつもりで始めます。ライブをやってみて受けなかったとしても、『はい、ここでやめます』ということはしません」
――最初から大規模なメディアミックスを仕掛けるのは、ユーザーに向けて多くのフックを用意する意味があるんでしょうか?
「1つには、いろいろな楽しみ方を用意することで、お客さんになっていただく機会を増やすということがあります」
「でもそれ以上に大きいのは、みんな勝ち組にくみしたいということです。なぜかというと、SNSが広がった現代では、1人で趣味を楽しむことがなかなかできないという面があるのだと思います」
「昔は音楽にしろ本にしろ、仲間と楽しむのとは別に、こっそり1人で趣味を楽しむことも多かった。『みんながそっちを好きでも俺はこっちが好きだぜ』とあえて推すような熱量を持つ人も珍しくなかったと思います。でも今はSNSで仲間同士がつながるから、少数派になりたくないんですよ。そこそこの多数派でいたい。個人的には仕方がない傾向だと思います」
「逆に言えば、ヒットしている原作があるものは別として、新規のアニメやゲームを楽しむのは難しい時代であるとも言えます。最初はどうしてもお客さんが少ないですから。もちろんその中には濃くて熱いファンもいますが、あくまでも少数派。大多数は『このコンテンツは盛り上がるな!』と思った時点で入ってくる。だから、ゼロからオリジナルコンテンツを仕掛けるときは、複数メディアの合わせ技で垂直立ち上げさせるしかないと思いますね」
「D4DJ」ならではのライブイベントを模索
――今回は、立ち上げ段階で新型コロナウイルスの感染拡大がありました。苦労もあったのでは?
「20年7月にオンラインの無観客ライブ『MixChannel Presents D4DJ CONNECT LIVE』を行いましたが、本来はパシフィコ横浜を会場に、4000人規模のライブを2日間開催する予定でした。これがコロナ禍で延期になっています」
「とはいえ、影響は多少あったという程度です。『D4DJ』については、DJというIPの特性上、ライブの規模を大きくする必要があるのか疑問もあるんです」
――クラブイベントのような小規模にするとか?
「そこまでにするかは別として、比較的小さい会場でライブをし、配信で大勢の人に届ける。会場で濃く楽しむ人と、配信で薄く楽しむ人に分け、コンテンツが届く裾野を広げるのもいいのではないかと考えているんです」
「配信も複数台のカメラでの配信は有料に、1台での配信は無料にといった取り組みができます。先日開催された『グルミク Presents D4DJ D4 FES. ~LOVE!HUG!GROOVY!!~』でもこの方式を採り入れていますが、ユーザーには評判がいいですね。定点カメラの映像で物足りなく思い、その場で有料課金をする人がいるのではないでしょうか。これは実は新しい配信の形なのではないかと自負しています」
(スタジオベントスタッフ 稲垣宗彦)
[日経クロストレンド 2020年10月23日の記事を再構成]
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