日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/10/31
オシリス・レックスの「タッチ・アンド・ゴー・サンプル採取機構(TAGSAM)」を試験するロッキード・マーティンのエンジニア。ヘリウム風船を使って、宇宙空間の微重力を再現した(PHOTOGRAPH BY LOCKHEED MARTIN)

「周回する対象としてはこれまでで最も小さな天体に到達し、最も小さな軌道を周回しているんです。これまで誰もやらなかったのは、難しすぎるからです。まったく新しい方法が必要でした」。オシリス・レックスのシステムエンジニアで、ロッキード・マーティンのオリビア・ビレット氏は、そう話す。

ベンヌの表面も、NASAの研究者を困惑させた。オシリス・レックスの打ち上げ前、ベンヌの表面は細かい砂で覆われた砂浜のようだと考えられていた。ところが探査機が到着してみると、実際にはごつごつした岩だらけの世界であることがわかった。

オシリス・レックスは、これほど起伏の激しい場所に着陸するようには設計されていなかった。そこでエンジニアリングチームは、ミッションの途中でナビゲーションソフトウエアをアップデートしなければならなくなった。ソフトになるべく多くの情報を与えるために、5センチ以下まで描ける精細なベンヌ表面の地図を作製した。探査機が作製した地球外天体の全球地図としては、これまでで最も詳細な地図となった。

オシリス・レックスのTAGSAMは、「逆流する掃除機」のようにベンヌの表面に窒素ガスを噴射し、舞い上がった細かい粒子をヘッドを使って捕らえる(ILLUSTRATION BY NASA/GODDARD SPACE FLIGHT CENTER)

「はやぶさ」が切り開いた探査の道

これまでに探査機が収集したデータから、ベンヌの表面にはいたるところに、生命に必要な炭素を含んだ大量の分子が存在していることが明らかになっている。「ナイチンゲール」と名付けられたサンプル採取地点でも、こうした分子が見つかっている。研究者たちは、それらを研究すれば太陽系の生命の起源について手がかりが得られるのではないかと期待し、世界中の研究室で準備を整え、サンプルの到着を待っている。

ベンヌへの探査の道を切り開いたのは、日本の小惑星探査機「はやぶさ」と「はやぶさ2」によるサンプル採取計画だった。はやぶさは、10年に世界で初めて小惑星のサンプルリターン(サンプル持ち帰り)を成功させた探査機だ。はやぶさ2も、19年に小惑星「リュウグウ」で数グラムのサンプル採取に成功した。そして、20年12月6日に地球へ戻り、オーストラリアの奥地でカプセルを落下させることになっている。

日本の探査機が採取したサンプルはわずかだが、オシリス・レックスは細かい粒から直径2センチの小石まで、最大約2キロのサンプルを採取できるよう設計されている。

サンプルが採取されたことが確認されたら、TAGSAMはアームを折りたたみ、先端のヘッドをサンプルリターン用カプセルへ収める。オシリス・レックスがカプセルを地球へ持ち帰るのは、23年の予定だ(ILLUSTRATION BY NASA/GODDARD/CI LAB)

米メリーランド州グリーンベルトにあるNASAゴダード宇宙飛行センターの研究科学者ジェイミー・エルシラ氏は、ベンヌの非生物的な化学プロセスから生まれたアミノ酸に関心を寄せている。地球上の生命は20種のアミノ酸を使ってタンパク質を作るが、宇宙から地球上へ落下した隕石(いんせき)からは、それよりもはるかに多くの種類のアミノ酸が見つかっている。ベンヌの手つかずのサンプルは、太陽系の黎明(れいめい)期にどのアミノ酸が存在していたのか、その割合が地球上の生命誕生にどのように影響を与えたかを教えてくれるかもしれない。

今後10日間が勝負

着地には成功したものの、シャンパンを開けてお祝いするのはまだ早い。オシリス・レックスが設計された通りにベンヌからサンプルを採取したかどうかを確認するには、10日ほどかかる。

今後数日間で、研究者はコマンドを送り、ロボットアームを伸ばした状態でオシリス・レックスを回転させる。採取した物質が多ければ多いほど、回転に力が必要になるので、それによってオシリス・レックスがどれだけの量のサンプルを採取したかを数グラム単位で推測できる。10月30日には、サンプルが十分に採取できたので地球へ戻るか、それとも採取をやり直すかが決定される。

(文 MICHAEL GRESHKO、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年10月22日付]