独自コンテンツでラジオから脱却

オリジナルコンテンツが続々と投入されている米国のPodcast市場で、一つのジャンルとして絶大な人気を誇るのが、犯罪ドキュメンタリーやサスペンスを扱ったオーディオドラマ。日本国内でもそうしたジャンルに契機を見いだし、「音声映画」を配信するという新たな試みも始まっている。

高視聴率をたたき出す人気テレビドラマシリーズ「半沢直樹」(TBSテレビ)。13年に放送された前シリーズでも数々の難敵が現れては倍返しされて表舞台から消え去ったが、彼らのその後の人生を描いたオーディオドラマが「半沢直樹-敗れし者の物語」だ。金融庁検査局の黒崎駿一、元西大阪スチールの東田満など、ドラマのキャラクターを片岡愛之助や宇梶剛士など役者本人が声で出演。おなじみのテーマ曲、丁々発止のセリフ回しなどあたかも目の前で半沢直樹のドラマが繰り広げられているようだ。同作品は20年2月にラジオ放送とストリーミング配信を行い、累計80万回再生を記録した。

半沢直樹のオーディオドラマを作ったのが、TBSラジオが立ち上げた「AudioMovie」というブランドだ。第1弾の作品は「半沢直樹」より前の19年11月に公開した「THE GUILTY/ギルティ」。同タイトルのサスペンス映画を基にした作品だ。人気コンテンツの半沢直樹には及ばないが、大きな宣伝をしていないにもかかわらず延べ10万回再生を達成。ApplePodcastのテレビ・映画カテゴリで1位に入るほど話題になった。

AudioMovieは音だけでドラマが展開するが「一般的なラジオドラマとは大きく異なる」とTBSラジオのUXデザイン局新規事業開発センターの加藤哲康氏は言い切る。例えば物語の状況を説明するナレーションは、リスナーに「言葉を理解する」というプロセスが必要になるため極力排除。状況を表現する効果音などでダイレクトに想像させることで、物語の主人公になったような没入感を味わえるという。

AudioMovieの開発に当たって協力したのが、TBSラジオが同時期に設立した「ScreenlessMediaLab.(スクリーンレス・メディア・ラボ)」だ。声や音が人に影響を及ぼすメカニズムなどを科学的に分析する研究機関で、「いかにコンテンツに没入させて飽きさせないか、脚本や演出などを一緒に検討して作品に反映した」(加藤氏)。

なぜTBSラジオがPodcastオーディオドラマの配信に乗り出すのか。背景にあるのは漸減傾向が続くラジオ広告市場だ。ラジオの主コンテンツである「パーソナリティーのトークと音楽」では権利ビジネスとして広がらない。「放送とは異なる市場開拓が急務となり、米国でブレイクしているPodcast市場のオーディオドラマに注目した」(加藤氏)。

収益化の方法は検討段階だが、IP(知的財産)ビジネスとしての展開も考えている。

映画や動画配信の作品は制作費などの投資リスクが莫大になるため、米国では人気が出たPodcastを映像化する例が増えている。例えばジュリア・ロバーツが主演するAmazonプライム・ビデオのドラマシリーズ「ホームカミング」はPodcast作品が原作だ。「TBSグループとしてはまずPodcastでマーケティングをして、最終的にテレビ放送や映画で展開するというところまで行ければいいなと考えている」(TBSラジオUXデザイン局新規事業開発センターの百枝一実氏)。10月20日にはノンフィクション作品を原案とした「つけびの村」を配信するなどオリジナル作品の制作にもいよいよ乗り出す。

新境地を目指しTBSラジオが挑む「音声映画」

「半沢直樹 敗れし者の物語」13年に放送された人気ドラマのサブストーリーを音声で構成。ドラマの出演者が声だけの演技に挑戦したことも話題になった
「THE GUILTY/ギルティ」映画作品を基にした音声コンテンツ。電話の音だけを頼りに事件解決に奮闘する緊急通報指令室が舞台
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