コロナ禍でアートフェアやライブオークションが相次ぎ中止となっている。その一方で、空前の盛り上がりを見せているのがネットオークションだ。サザビーズは2000年前後からノウハウを蓄積し、20年3~7月はネット空間での競売が前年同期比6倍の売り上げを達成。人気の出品アイテムとして時計の存在感が急速に高まり、顧客の新陳代謝が進むなど、アート市場を取り巻く雰囲気は様変わりした。そんな新しい潮流はドレスコードにも及んでいる、とサザビーズジャパン会長兼社長の石坂泰章さんは指摘する。(この記事の〈上〉は「前沢友作さんに会う時はノータイ アートの裏方の装い学」)
カフリンクスで遊び心
――オークションの「ここぞ」という場面で着用する、勝負服はありますか。
「スーツやネクタイではありませんが……」
――カフリンクスですね。今、袖口から見えているのは、オークションハンマーの形でしょうか。存在感がありますね。
「ロンドンを歩いていたときに見つけた、僕の勝負カフリンクスです。全部で20個くらい、遊び心があるものを集めています。こちらは伊勢丹で見つけたスカル(どくろ)モチーフ。本物の時計の部品で作られたものもありますが、それはニューヨークで手に入れました。時計愛好家のお客さまに会いにいく時にはそれを付けます」

――石坂さんのおじいさまは「財界総理」と呼ばれた、昭和を代表する財界人の石坂泰三さんです。おしゃれのセンスや一流品を選ぶ目が養われたのは子供時代からですか。
「確かに祖父はネクタイにこだわりがあったようですし、ボルサリーノの帽子を好んでかぶっていて、すごくおしゃれではありましたよね。父はおしゃれにそれほど興味がなかったようですけど、小ぎれいな格好をしていたといいますか。なにより僕が子供心にかっこいいな、と憧れたのは、芝公園にあるレストランクレッセント(東京都港区)を作られた、骨董商の石黒孝次郎さん。あの人はまさにダンディーそのものという人でした」
「石黒さんはうちの父と成蹊高校ラグビー部の先輩後輩の間柄。後に京大に行かれてラグビーの天才と言われた人です。うちにいらっしゃるたくさんのお客さんの中でも、シックな装いで、際立っていました」


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