アルコールへの依存 コロナ禍で増えた? 減った?

日経Gooday

写真はイメージ=(c)thevisualsyouneed-123RF
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日経Gooday(グッデイ)

新型コロナウイルスの影響によって自宅で過ごす時間が多くなった中、アルコール依存症や肝機能障害などアルコール関連問題の増加が懸念されている。2020年10月、国立病院機構久里浜医療センター院長の樋口進さんがオンラインで行った講演「アルコール関連問題啓発プレスセミナー」(主催・大塚製薬)から、アルコール関連問題の現状と課題をお伝えしよう。

◇   ◇   ◇

かつて「酒は百薬の長」などと言われ、少量であれば体にいいと思われていた。しかし最近になって、「健康のためにはアルコールはまったく飲まないのがベスト」という論文が発表され(Lancet. 2018;392(10152):1015-35)、世界中の左党に衝撃を与えたことが記憶に新しい。

縦軸は相対リスク。横軸はアルコールの消費量。1単位は純アルコール換算で10g。(Lancet. 2018;392:1015-35.を基に編集部で作成)

実際、酒によって健康を壊し、命を落とす人は決して少なくない。WHO(世界保健機関)によると、2016年にはアルコールの消費によって約300万人が亡くなった。これは結核、エイズ、糖尿病の死者より多く、全死者数の5.3%を占めている。アルコール依存症や有害な使用をしている人たちは約2億8300万人おり、15歳以上の5.1%が該当するという。

治療を受けている人はわずか5%

大量の飲酒によって起こる病気はたくさんあるが、誰もが思いつく代表的なものがアルコール依存症だろう。アルコール依存症とは「多量の飲酒を続けることで脳に障害が起き、自分の意志ではお酒の飲み方をコントロールできなくなる病気」と樋口さんは説明する。

この「脳に障害」という部分に注目してほしい。正常な人にとって酒量のコントロールは意志や性格の問題だが、いったんアルコール依存症を発症すると自分の意志で酒量を抑えることはできなくなる。アルコール依存症は治療を要する精神疾患なのだ。そのまま大量の酒を飲み続けていれば、生活習慣病、肝臓病、がん、認知症など多くの病気のリスクが高くなって確実に寿命を縮める。家族や周囲の人たちに迷惑をかけることも増え、やがてまともな社会生活を送れなくなるかもしれない。

にもかかわらず、多くの患者が治療を受けていない。それがこの病気の一番の問題だ。

「治療が必要なのに治療を受けていない人の割合を“治療ギャップ”と呼びますが、アルコール依存症はこれが極めて高い。国内の潜在患者数は約100万人と推計されていますが、治療を受けている患者は約5万人でわずか5%しかいないのです」(樋口さん)

WHOによる診断基準

治療ギャップが高い理由はいくつか考えられる。最も多い理由は「自覚がない」ことだろう。多くの患者は自分のことを単に酒が好きなだけであり、アルコール依存症などのはずがないと信じている。

アルコール依存症はかつて「アル中」と呼ばれた。仕事もせず、朝から晩までずっと酒を飲んで酔っ払っているイメージだ。しかし、そんな絵に描いたような患者ばかりではない。毎日きちんと会社に行き、一見普通の社会生活を送っている人の中にも依存症患者は潜んでいる。

左党にとって「ブラックアウト」(大量飲酒のせいで記憶が飛ぶこと)はそれほど珍しい現象ではないかもしれない。しかし、「このブラックアウトが起こるようになった辺りが依存症との境界線です」と樋口さんは指摘する。そもそも酒量をきちんとコントロールできていれば、記憶が飛ぶほど飲むことはありえない。ブラックアウトは酒量のコントロールが利かなかった証拠であり、依存症の入り口というわけだ。

ここでアルコール依存症の診断基準を紹介しておこう。WHOでは以下の6項目のうち3項目以上に当てはまる場合をアルコール依存症だとしている。

(1)飲酒したいという強い欲望あるいは強迫感
(2)飲酒の開始、終了、あるいは飲酒量に関して行動を統制することが困難
(3)禁酒あるいは減酒したときの離脱症状(イライラする、手がふるえる、など)
(4)耐性の証拠(飲酒量が増える)
(5)飲酒にかわる楽しみや興味を無視し、飲酒せざるをえない時間やその効果からの回復に要する時間が延長
(6)明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず飲酒

酒好きを自認している人であれば、1つや2つは当てはまるのではないだろうか。アルコール依存症の診断基準は想像以上に厳しく、自覚がない人が多いことがよく分かる。

同じくWHOが作った「AUDIT(オーディット)」というアルコール関連問題のスクリーニングテストもあり、久里浜医療センターのHP(https://kurihama.hosp.go.jp)にも載っている。「10項目の質問に答えることで0~40点がつき、15点以上になるとアルコール依存症が疑われるというものです」と樋口さんは説明する。

実際、約4000人の成人に行ってもらった結果、15点以上になる人は男性の5.1%、女性の0.7%であり、アルコール依存症の有病率に近いという。気になる人は、ぜひ試してもらいたい。

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