2020/11/8

ここで少し立ち止まって考えてみよう。科学者たちが新型コロナウイルスをより正確に把握し、この感染症の予防法を突きとめようと、衆人環視のなか、大慌てで右往左往する様子を目の当たりにしたことは、長期的にどんな影響を及ぼすのか。私のような科学オタクでさえ、科学者たちが議論し、意見の一致を見ず、見解を変え、再検討する姿を見ていると落ち着かない気分になった。白衣のヒーローが現れて、一気に問題を解決してくれないか。そんなむなしい希望にすがりたくなった。

科学者たちが、一見手に負えない、この恐ろしい疫病から私たちを救おうと奮闘している今、もう一つの幸福な結末を思い描くこともできる。人々がただこの危機を生き延びられるだけでなく、その経験を通じて英知を得る、という結末だ。この悲惨な経験から何か大きな教訓を学ぶとすれば、それは「生存が脅かされる危機を乗り越える手だてとして、科学がたどるプロセスを信頼していい」ということかもしれない。私はそこに希望を見いだしている。

間違えてはいけない。私たちが直面しているのは、とてつもなく困難な、これまでに経験したことのない事態だ。新型コロナウイルスは、米国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長が「最悪の悪夢」と呼ぶほど高い感染力と致死性をもっている。出現したときには世界中の誰一人として免疫をもっていなかったし、呼気や飛沫を通じて人から人へと簡単に広がる。そして、これが最も厄介な特徴かもしれないが、このウイルスの感染力は発症前が高い。言い換えれば、人にうつす確率が最も高い時期に、感染者が自覚のないまま出歩いてしまうのである。

体の防御機能をかわすために、このウイルスが使うトリックは、残忍なまでに効果的だ。鼻か口を通って体内に入り込むと、免疫の最初の防御をすり抜け、やすやすと細胞内に侵入し、自己のコピーをどんどん作る。遺伝子の複製ミスが起きた場合は、それを修正する“校正機能”まであり、これはほかの多くのウイルスにはない機能だ。新型コロナウイルスが起こしうる症状は多様で、容赦なく体をむしばむ。肺の細胞は機能しなくなり、X線画像にはすりガラスのような影が映る。増殖したウイルスは、小さな血栓をたくさん作って血管を破裂させたり、詰まらせたりする。腎臓や心臓、肝臓も機能不全に陥る。このウイルスは、過剰な免疫反応を引き起こし、体を守るはずのシステムが、逆に徹底的に破壊するように仕向ける。そして、感染者と密接に接触した人もまた、どのくらいの確率かは誰にもわからないが、感染するリスクが高い。

新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的な大流行)が全世界を脅かすなか、この疫病との闘いもまた全世界が見守るなかで果敢に進められている。科学研究では、新たな仮説の構築や検証は通常、専門家の会議や、新しい論文の掲載に時間がかかる学術誌上で行われるが、今や一般市民までそこに首を突っ込んでいる。テレビ番組、フェイスブックやツイッター、世間話の場でも、コロナ対策が論じられている。

この厄介な疫病に協力して立ち向かおうと、ウイルス学や感染症とはかけ離れた専門家も含め、世界中の何千、何万人もの研究者たちが研究体制を整えてきた。政府間の対立すらものともせず、研究者が国境を越えて、これほど多く、短期間に結集するのは前代未聞のことだ。

「この危機に対処しようと、人々が尽力している様子を見て感動しています」と、米エール大学世界保健司法パートナーシップの共同代表、グレッグ・ゴンサルベス氏は話した。「科学とはまったく違う分野で教育を受けてきた人でさえ、何らかの貢献をしようとしているのです」