オンライン結婚式を姉妹で事業化 コロナ延期に救いを
コロナ禍によって大きく変わった、人々の暮らし。さまざまなイベントが中止となるなか、泣く泣く結婚式を中止したり、延期したりした人も少なくない。黒田佳奈子さん、高村えり子さん姉妹は、「結婚式をあきらめたカップルを救いたい」と、「おうちでオンライン結婚式・Stay Home Wedding TOKYO」の事業を立ち上げた。発案からサービスを開始した6月まで、姉妹は一度も直接会うことなく、クライアントとのやりとりもすべてオンライン。しかも事業開始までは2カ月というスピード感。異例づくしの新ビジネスにかける思いを聞いた。
「結婚式をするはずだった日、どう過ごせばいいの?」
「おうちでオンライン結婚式・Stay Home Wedding TOKYO」は、参加者がZoomなどのオンライン会議システムを利用して集まり、オンラインで結婚式を挙げるカップルが結婚の誓いを立てる様子を見守ったり、スライドショーを一緒に見たり、食事を食べたりしながら、お祝いの言葉を届ける、新しいスタイルの結婚式だ。
2020年4月、この「おうちでオンライン結婚式・Stay Home Wedding TOKYO」の事業計画を立て、6月にはサービスを開始したという黒田佳奈子さん、高村えり子さん姉妹。姉である黒田さんは東証1部上場企業で新規事業開発に携わった後、電通コンサルティングで大手企業のマーケティングサポートを経験。2016年に企業内での女性活躍推進をサポートする「WOMAN COLLEGE」を立ち上げた。
妹の高村さんはブライダル業界最大手のテイクアンドギヴ・ニーズ、グローヴエンターテイメント、アニヴェルセルでウエディングプランナーとして約600組の披露宴を担当した後、退職。
姉妹で歩む道は違ったが、それぞれのフィールドで着実にキャリアを積み上げてきた。お互い忙しく、それほど頻繁に連絡は取っていなかったが、コロナウイルスが流行してからは「元気?」「マスクが手に入ったよ」とLINEを送り合うようになっていた。
そんな2020年の3月、高村さんに親友から「結婚式を延期します」という連絡が入った。
「学生時代の親友から『結婚式をするはずだった日をどう過ごせばいいか分からない』という連絡が来たんです。結婚式の日取りを考え抜いて、選び抜いて、桜の咲く時期に式をするはずだったのに、コロナで見通しがまったく立たなくなってしまって……親友はショックのあまり体調も崩していました」(高村さん)
幹事になり、お祝い会を開いてみたら…
そのとき、高村さんの脳裏によみがえったのは3.11の東日本大震災で、結婚式を延期した人たちのこと。
「当時も結婚式を延期したカップルが何組もいたのですが、私は何もできなかったんです。その時の悔しさと、今こそ力になりたいという思いが湧き上がってきました」
親友のために何かできないかと考え、高村さんが幹事となり、オンライン会議システムのZoomを使ってお祝い会を実施した。進行表などはなく、時間も30分程度だったが、友人たちが20人近く集まり、心温まる会を開くことができた。
「私は長くウエディングプランナーを務めてきましたが、改めて『結婚式の一番大事な部分』に気づかされました。これまでは、一生に一度の結婚式だからと、どうしてもドレスやブーケ、お料理や演出の映像といったことに気が向いてしまっていたのですが、本当に大切なことはシンプルだったんです。ちゃんと『おめでとう』『ありがとう』を伝えること。人とのつながりやぬくもりを感じる時間を過ごすことが何よりも大事だったんだと」(高村さん)
熱意を姉に託し、新事業が動き出す
困っているカップルを救いたい──熱い思いに突き動かされ、高村さんは「妄想帳」と呼んでいるアイデアノートを手に取り、アイデアを思いつくままに書き出した。
「ウエディングプランナー時代から、頭のなかのアイデアは真っ白な紙に書き出すようにしているんです。『Stay Home Wedding TOKYO』という事業名もパッと浮かんできました。親友のお祝い会で分かったのは、結婚式はオンラインに形を変えてもできるということ。
核となる部分は、新郎新婦が大切な人たちと心からつながること。そのためにはどんな段取りにすればいいのか、何を準備すればいいのか──頭に思い浮かぶことを書き尽くしました」(高村さん)
できたてのアイデアを写メに撮り、姉である黒田さんにLINEで送信。パッションあふれるメッセージを受け取った黒田さんの返事は「いいね! やろう!」。即答だった。
「妹の妄想ノートの濃厚さと思いの強さに驚きましたね。同時に、これは、誰かがやらなければならない事業だと思いました。私は今の会社で3回目の起業ですが、起業して軌道に乗せるには『強い思い』が一番大切だということを実感していたからです」(黒田さん)
ビジネスパートナーとして信頼できる
とはいえ、姉の黒田さんも「身内だから」といって甘いジャッジで高村さんのアイデアを採用したわけではなかった。
高村さんは3社でウエディングプランナーを務め、社長賞をもらうなど一流の結果を出していた。何百万円という高額な費用がかかる結婚式でも8割、9割の成約率を誇っていた。
また、過去に黒田さんが心血を注いで立ち上げた事業の共同経営の代表を降りることになり、築き上げた人脈やノウハウを手放し、現在の「WOMAN COLLEGE」をゼロからスタートさせた時も、「完璧な仕事ぶり」を発揮して、設立記念イベントを大成功に導いてくれたという。
「純粋に『ビジネスパートナーとして信頼できる』という部分が一番でした。ただ、妹が優秀なウエディングプランナーとして土日関係なく働き、新郎新婦のためにプライスレスで尽くし、頑張れば頑張るほど体が追いつかずに退職……という経緯を知っていましたので、再び力を発揮できる場をつくれるなら、姉である私が動こう、と」
「実は、妹だけでなく、ウエディングプランナーは過酷な仕事であるがゆえに辞めてしまう人が多いと知り、その人たちの新たな活路がつくれたら……と思いました。優秀なプランナーが活躍できる場をつくりたい。女性の活躍を支援するWOMAN COLLEGEの事業の核の部分と、妹の思いがマッチしたんです」(黒田さん)
おりしもSNSには「#結婚式延期」「#結婚式中止」「#結婚式キャンセル」といった悲鳴のような投稿があふれていた。全国の式場やホテルなどが加盟する「日本ブライダル文化振興協会」の調査によると、2020年3月~9月までの間に、およそ17万組の結婚式に影響が出たという。
早くサービスを開始しなくては──。姉妹の思いが一つになり、Stay Home Weddingは急ピッチで事業化へ向け動き始めた。
(取材・文/三浦香代子、長野洋子=日経doors編集部、写真 鈴木愛子)
[日経doors 2020年10月12日付の掲載記事を基に再構成]
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