Men's Fashion

前沢友作さんに会う時はノータイ アートの裏方の装い学

リーダーが語る 仕事の装い

サザビーズジャパン会長兼社長 石坂泰章氏(上)

2020.10.29

コロナ禍でアートの取引に地殻変動が起きている。景気の悪化が美術品の流動化を促し、ネットオークションの増加が顧客の裾野を広げているためだ。このアート界で近年主役に躍り出たのが現代美術で、ZOZO創業者の前沢友作さんをはじめとする起業家コレクターの台頭もめざましい。オークションを手掛けるサザビーズジャパン会長兼社長の石坂泰章さんの顧客層も多様化し、時にはスーツ、時にはノータイやカジュアルと柔軟に装いを変えて向き合う。クリエーティブなデザイナーのオーダースーツが目下のお気に入りだ。(この記事の〈下〉は「スタバと新聞を手に参加も オークションのスタイル激変」




美術品オークション、コロナで活況に

――先日、サザビーズの競売でモネの睡蓮(すいれん)をパロディー化したバンクシーの作品が10億円超で落札されました。コロナ禍で美術館の危機が報じられているなかで、意外でした。

「バンクシーは作品数が少ないけれど、話題性では一番。新聞があれほど宣伝してくれるアーティストはいないです(笑い)。アート界は実際、盛り上がっているともいえます。コロナの影響は2つあります。1つは急激な景気悪化によって3月くらいからすごい勢いで美術品が市場に出回るようになってきたこと。美術館が収入源を絶たれ、資金調達のためのガラディナー(特別なディナー)なども開けず、苦境に陥っています。そこで米国では一時的に規則を変更し、当分は運営費にあてるためにコレクションを売ってもよい、ということにした。美術品の市場は常に供給不足の状況にあります。今こそ手に入らなかったものを買えるチャンスとばかりに、市場に人が流れ込んでいます」

「もう1つ、家にいる時間が増えて、室内に飾る絵画への関心が高まっていることがあげられます。日本では今年、過去20年間で初めて『売り』を『買い』が上回りました。この10月だけでもポーラ美術館がゲルハルト・リヒターの作品を30億円で購入したり、100カラットのダイヤモンドを落札したのが日本人だったりと、高額なものが動いています」

――世界中のVIP顧客と応対する際、どんな装いを心がけていますか。

「僕自身がアーティストであるわけではないですし、あくまでも裏方ですから、控えめなものを着るようにしています。こだわるところはサイズ感と清潔感です。きょう着ているスーツとシャツはデザイナーの松島正樹さんが仕立ててくれたもの。10年くらい前からの知り合いで、5年ほど前から特別に作ってもらっています」