コロナ直撃のミュージカルに照準 ホリプロの新人発掘
これまでに深田恭子(1996年)、綾瀬はるか(2000年)、石原さとみ(02年)など数多くの女性スターを輩出してきた「ホリプロタレントスカウトキャラバン(TSC)」。大手芸能プロダクションのホリプロが主催する新人オーディションの代表格だが、近年は「声優」「モデル」など、年ごとに異なるテーマを設定。17年は性別不問での募集、翌18年はデビューが決まるまでの選考過程を全て非公表とするなど、様々なトライアルを続けてきた。
19年の休止を経て、2年ぶりの開催となる今年は男女不問で、初めて「ミュージカルスター」の発掘をテーマに掲げる。9月30日に募集を締め切り、12月にはグランプリを決定する予定だ。TSCはプロダクション部のマネジャーが持ち回りで実行委員長を務めており、今回はミュージカルや舞台の制作のファクトリー部(公演事業部)と全面的にタッグを組むという。
ミュージカルをテーマとした理由について、実行委員長を務める同社プロダクション2部の川畑良太氏は「コロナ禍のこういった時だからこそ何かできないかという思いがあった。演目の中止が続くファクトリー部では、今は将来のために種をまこうとクリエイターの発掘・育成に力を入れているという。それなら合同でTSCを実施するのはどうかと準備を進めてきた」と語る。
ファクトリー部では演出家をはじめ多くの舞台関係者とつながりがあることから、強力な審査体制が組める。また、レッスンをしながら1年かけて出演者を選考した『ビリー・エリオット~リトルダンサー』のように、作品ごとのオーディション経験も豊富。さらに、年間20作品以上の舞台を制作していることから、受賞者の「出口」が十分にあるのも大きな強みだ。
とはいえ、コロナが収束しないなかでの初の試みとあって、懸念される点も多い。1つはやはり安全面。これまでは全国各地で予選を行ってきた。しかし「序盤の選考はリモート中心とする予定」(川畑氏)。また、俳優やモデルなどに比べ、歌・ダンス・芝居のスキルが要求されるミュージカルは、応募者にとってハードルが高いのも気がかりだったという。
川畑氏とともに実行委員を務めるファクトリー部の大屋佳枝氏は「最近はミュージカル出身の俳優が朝ドラで活躍したり、2.5次元も含めた公演が増えたりとミュージカルは徐々に身近なものになってきた。演技が好き、大きい声で歌えるという人なら経験者じゃなくても大丈夫だと、積極的にアピールしていきたい」と話す。
オーディションをPRするスペシャルアンバサダーには市村正親が就任。「長く活躍できるマルチな俳優に育てたいという思いを込めて、ストレートプレイやドラマでも活躍されている市村さんにお願いした。親御さんにも安心していただけるのでは」(大屋氏)。
さらに、選考過程を見せる配信番組も予定。一般投票による審査も兼ねたファイナリストの個人配信も検討するなど、最近の潮流も積極的に取り入れていく考えだ。メディアの変化などに伴い、新人発掘オーディションのあり方も大きく変わる昨今。老舗オーディションの新たな挑戦はどのような結果を生むか、注目される。
(日経エンタテインメント!10月号の記事を再構成 文/高倉文紀)
[日経MJ2020年10月23日付]
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