オンライン教育も機器の保有状況や通信環境によっては格差が開く要因となります。特定非営利活動法人のラーニングフォーオールは6~8月、ひとり親世帯などの延べ720人の子どもに機器を配り、ボランティアの大学生らがオンラインで勉強を教える取り組みを進めました。那覇市は8月から生活保護世帯の小学4~6年生が塾代に使えるクーポンを配布。親の所得の違いによって教育格差が開くのを抑えようとしています。

教育経済学を研究する慶大の中室牧子教授は「政府はデータから分かってきた格差の実態を踏まえ、困窮している子どもを優先して支援すべきだ」と話しています。

中室牧子・慶応義塾大学教授「データ生かし、子どもに投資を」

コロナ禍で広がる教育格差にどう対処していけばいいでしょうか。教育経済学を研究する慶応義塾大学の中室牧子教授に聞きました。

――格差の拡大に対する政府の取り組みをどう評価しますか。

中室牧子・慶応義塾大学教授

「国民への一律10万円の給付を例に説明したい。まずこの政策は低所得世帯に対象を絞っていないので、格差を縮小する再分配の効果が小さい。政策の決定過程に2点の問題がある。1つは給付の効果を検証する体制がないことだ。たとえば米国では過去に現金を給付した際、お金が消費に回ったのか、貯蓄されたのかを経済学者が調査した。その上で給付が高齢者や低所得世帯の消費を増やし、景気刺激の効果も大きいことを突き止めた。過去の教訓を生かして政策設計をする発想が日本では薄い。2点目は、困っている人たちを把握できていないことだ。行政が普段から生活に困窮する世帯のデータを把握していれば、コロナのような有事に素早い支援ができる。10万円給付は病気の人や社会から孤立した人も申請をしなければ受け取れなかった。行政がデータを把握していれば、脆弱な人たちに的を絞った『プッシュ型』の支援が可能になる」

――教育格差の縮小には何が必要でしょうか。

「コロナの問題に関して言えば、最も被害を受けたのは一斉休校を経験した子どもたちだ。教育機会が損なわれた子どもたちこそ最も支援を必要とするのに、政府は『9月入学の検討』など将来世代まで含むような政策の議論をしている。これでは弱者救済にはならないので、被害を受けた子どもたちをピンポイントで救済するための議論を進めるべきだ。さらに臨時休校の期間は、自律して学ぶことができない低学年の子どもたちへのダメージが最も大きかった。教科で言えば(知識の)積み上げが必要な算数の習得に影響が大きい。影響度合いを可視化し、支援にも優先順位をつけていくべきだろう」

――低所得世帯の子どもたちへの支援はどうあるべきでしょう。

「教育は将来への投資だ。大きなリターンを生む教育投資をすれば、ゆくゆくは税収という形で国に返ってくる。教育経済学の研究成果に従えば、人的資本の蓄積という将来のリターンが最も大きいのは低所得世帯の子どもへの投資だ。貧困世帯の子どもへの投資は格差縮小という理念の問題であるだけでなく、合理性を伴った政策だと考えている」

――オンライン教育の普及をどう考えますか。

「普及が進めば、天災や電車が止まったときなども授業を継続できる。しかしさらなる普及の障害となっているのが政府による諸々の規制だ。たとえばオンラインの遠隔授業では情報の発信側だけでなく、受信側にも教員を配置しなければならないとする規制が残っている。しかし在宅で授業を受ける必要を考えれば、現実的な規制ではない。今後のコロナの再流行を見据え、こうした規制の必要性をしっかり議論すべきだろう」

(高橋元気)

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