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悲劇の八百屋お七、生きてくれ ネタばれ覚悟で談笑版

立川談笑

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NIKKEI STYLE

「八百屋お七」とは、江戸時代初期の事件を基にした物語です。「17歳の美少女が恋人会いたさから放火をして、死刑になる」というセンセーショナルなストーリーは、次から次へと創作が重ねられました。

私はこれを談笑版として落語に仕立てて、先日の独演会で披露したのです。今回は落語制作の裏話を1席ご披露します。ざっくりと物語のあらましから。

本郷にある大きな八百屋には、お七という美人で評判の娘がいた。店が火災で燃えたため建物を新築するまでの間、お寺に家族従業員ともども仮住まいをすることになった。その寺で娘は若い小姓と出会い、恋に落ちる。しかし新しい店が完成して二人は離れ離れに。娘は小姓に会いたい一心から「また火事になればあの人に会えるはず」と放火に及ぶ。捕らえられた娘は火あぶりの刑に処せられる。

我ながらざっくりすぎますが、仕方ない。この物語こそ「諸説あります」を地で行くようなものです。何パターンもストーリーがある。

実際の事件をもとに歌謡曲や漫画まで

江戸初期に世間を騒がせた事件があって、その数年後に出版されたのが井原西鶴による「好色五人女」です。そこに採り上げられたことで「八百屋お七」の強烈なドラマ性が決定的に全国に広まったようなんです。

それ以降、現代にいたるまで。文学、歌舞伎、文楽、落語、歌謡曲、映画、テレビドラマ、漫画……。日本の娯楽界のありとあらゆるジャンルで扱われてきました。私の世代で印象に深いのは坂本冬美さんが歌って大ヒットした「夜桜お七」でしょうか。

それにしても事件から300年ですよ。長い年月をかけて、じつに多種多様なアレンジを施されてきたのです。だから、寺だって登場人物だって作品によって名前は違うし、存在したりしなかったりします。それでもなまじっか実際の事件が元だから、架空のはずなのにもっともらしい石碑だとか墓石やらがあちこちに現存するんです。おもしろいですね。最近のアニメーションやドラマのゆかりの土地をファンが訪れる「聖地巡礼」。あれと同じ。町おこしのタイアップ企画!メディアミックス!なんつって新しそうですけど、昔っからやってるってことでしょうか。

さてさて、私も落語版「八百屋お七」を作ることにしました。すでに先人が落語としてもいくつか作ってはいるのですが、別個のものを新規に。

そこでまず、問題点。いくら純愛だ若さゆえの熱情だの言っても、放火は許されないだろう、と。いや、法律的に許されないのはもちろんですが、ここでは聴き手の心情として許せないだろうということです。感情移入できるか? できないなら、じゃあどうする? これが作り手としての問題点その1。

もうひとつクリアすべき問題点は、主人公が命を落とす結末です。バッドエンド。悲劇としては大いに感情をゆさぶる、観客の涙をしぼるストーリーなのでしょうが、私にはどうも……。なんとか助けたいじゃないか。

このあたり、作品によっては、死罪ではあまりにかわいそうだからとお役人が「おまえは本当は15歳であろう?」などと年齢による刑の減免をさせようとしますが、「いいえ、17歳です」とお七はゆずらないのです。うそをつけない正直さも悲劇の要素かもしれない。だけど、ねえ。

そんな課題をふまえて。以下は談笑版のあらすじです。名付けて「八百屋お七~比翼塚の由来」。八っつぁんがご隠居さんを訪ねるシーンから始まります。

八百屋お七~比翼塚の由来

八っつぁん「駒込まで仕事に行った帰り、吉祥寺で比翼塚ってのを見てきました。あの八百屋お七って、本当にあった話なんですってね」

ご隠居「おやおや。もう50年も昔になるかな、あたしの若いころ。江戸中が、いや、日本中が大騒ぎだったもんだ。というのもね……」

このあたりからご隠居さんの回想になります。

  火事で店を焼かれた八百屋の娘お七は、家が新築できるまで家族や奉公人たちとともに駒込の吉祥寺に身を寄せていた。
  仮住まいのどさくさに、かねてお七に思いを寄せる番頭が寺の片隅で手荒な真似(まね)をしようとした時に、お七を助けてくれたのが小姓の吉三郎。同い年の17歳ということもあり二人はすぐに恋仲になる。
  しばらくして家が完成して、お七は本郷に帰った。それでも二人は、人目を忍んでこっそりと互いに行き来する日が続いていた。
  この関係に気づいた番頭が八百屋の主人に言いつけたため、ついに二人は会えなくなってしまう。お七の身の回りの世話をするおきよが手紙を届けるなどする中で、「また火事になればお寺でいっしょにいられる」というやりとりを番頭が耳にした。
  そしてある夜、八百屋の中庭にある物置小屋から火の手が上がった。まっさきに火に気づいたお七の頭に、吉三郎のことよりも火事で焼け出された人々の悲嘆にくれた顔がよぎった。思わずはだしでとびだす。
  「火事です! 火事です! 起きて! 火事です!」
  叫びながら通りをへだてた火の見やぐらにかけのぼると、半鐘を打ち鳴らした。ジャンジャーン! ジャンジャーン! ジャンジャーン!
  火事はぼやで収まった。お七が店に帰ると、駆け付けた火消し連中や町内のやじ馬がごった返す中、お役人の調べを受ける店の番頭と主人の姿があった。
  「暗かったのですが月明かりに坊主頭(ぼうずあたま)が光ってました。やせて背の高いその男が木戸から逃げていくのをこの目で見ました。それに、男が逃げるときにあれを落としました」。番頭の話を聞いた役人が拾って調べると、手ぬぐい。吉祥寺と染め抜いてある。主人もそれを見て「むむ。それでは番頭の言う通り、やはり吉三郎とやらのしわざか」。「旦那さま、間違いございません。この家がまた火事になればまた寺でふたり一緒に暮らせるなどと手紙のやりとりをしていたようですし」
  役人が鋭く部下たちに吉三郎捜索の命令をとばすのを見て、お七は気が付いた。このぼや騒ぎは吉三郎に罪を着せるため番頭がしかけた計略なのだ。火つけは天下の大罪。被害の大小にかかわらず死罪になる。このままでは吉三郎の命はない。
  「私です! 私が火をつけました!」

ご隠居さんの語り口に引き込まれる八っつぁん。息をのんで続きを待ちます。

  江戸中は沸き返った。死罪を承知で火つけをした。犯人は美少女で、恋しい人に会いたい一心からとは、なんとはかなくも愚かな純愛話であろうか。
  とはいえ、若気の至りという言葉もある。ぼやで済んだことでもあり、同情は集まったが、法は法。火つけは火あぶりと決まっている。お奉行様も助けてやりたいが、どうにもならない。
  鈴ケ森の刑場には見物人がひしめいた。材木にくくりつけられたお七の姿が現れると大きなどよめきが起こる。お七はまっすぐに群衆をみつめて口を開いた。
  「おとっつぁん、おっかさん、ごめんなさい。そして、吉三郎様に伝えて。『どうぞこの先お達者で、所帯も構えて末永くお過ごし下さいね。お寺で一緒に過ごした、あのときが私の宝物です。しあわせでした』」
  お七が目を閉じる。役人が目くばせをすると役回りの男たちがお七の足元に駆け寄った。材木の周囲に杭(くい)を立て、むしろで覆うように囲いをしつらえると、その中に薪の束が積み上げられる。薪は荷車で次々に運びこまれ、ついにはお七の頭もすっかり隠れるほど。お上にもお慈悲がある。苦しまないで済むようにとのわずかながらの心配りだ。周囲のむしろが外されるとご丁寧に油がたっぷりまかれた。
  火縄が放られるとボッと音を立てて大きな炎が燃え上がり、群衆から悲鳴が上がった。お七の名前を叫ぶもの。お題目を唱えるもの。
  無残にも黒く焼け焦げた中を検分した役人が深くうなずいて手を合わせると、三々五々見物人たちも涙を拭きながら鈴ケ森を後にしたと。

 ご隠居「おまえさんが見た比翼塚の由来とは、まあ、こういう話だ。比翼連理。比翼の鳥というのはな、つがいの鳥が、片方ずつしか翼がなくなっても二羽が一緒になって飛び続ける。深い深い夫婦の契りをたとえたもんだ。お七と吉三郎と離れ離れになっても心はひとつだということかな」

お七の最期を聞いて、悔しがる八っつぁん。しかしご隠居の話はまだ途中でした。「実は……」と真相を明かします。

〇お奉行様の計らいによって、火あぶりのとき薪を積む作業にまぎれてお七はむしろに巻かれ荷車で助け出されていたこと。
〇悪い番頭は身をもちくずし、その後まもなく博打(ばくち)場で命を落としたこと。
〇吉三郎はお七とふたりで江戸を離れてしばらく素性を隠していたこと。
〇商売にも成功して、いまは江戸に戻ってふたり仲良く隠居暮らしを楽しんでいること。
〇この話は、他の誰にも言ってはいけないということ。

そして最後に、その昔お七と呼ばれたおばあさんがほほ笑む。こういう話です。

悪くないでしょ?

立川談笑
1965年、東京都江東区で生まれる。高校時代は柔道で体を鍛え、早大法学部時代は六法全書で知識を蓄える。93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名、05年に真打ち昇進。近年は談志門下の四天王の一人に数えられる。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評があり、十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。
立川談笑、らくご「虎の穴」 記事一覧はこちら

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