原田流「ゴンチャ改革」 おかゆとコーヒー出す狙い
台湾発のティーカフェ「ゴンチャ」を展開するゴンチャジャパン(東京・渋谷)が2020年10月16日、初のフードメニューとして3種のおかゆを発売した。コーヒーメニューも10月中に全店舗に広げる予定だ。「タピオカブームは終わった」と報じられる中、そのブームをけん引してきたゴンチャの出店速度はこのコロナ禍でむしろ加速している。足元ではコロナ前を上回る売り上げを確保する店も現れた。
20年7月、フルーツビネガーを投入したゴンチャが今度はフードメニューを発売した。「参鶏湯(サムゲタン)」「生姜(ショウガ)トマト」「塩昆布」という3種のおかゆで、身も心もほっとして1日が彩られるようにと「彩々粥(さいさいがゆ)」と命名した。
鶏のだしでとろとろになるまで煮込んだ中華風のおかゆをベースに、参鶏湯は蒸し鶏とフライドオニオン、松の実、糸唐辛子をトッピングして、鶏のうま味が引き立つやさしい味わいに。生姜トマトはトマトソースと鶏そぼろ、粉チーズ、パセリを合わせ、さっぱりと仕上げた。葱生姜醤(ネギショウガジャン)という調味料を加えることで、洋風のイメージがあるトマトがゆをアジアン風にアレンジしたという。
塩昆布では、昔ながらの日本のおかゆに挑んだ。国産米を五分がゆ(米1に対して水10の割合)に仕立て、米の食感をしっかりと残した白がゆに細切りの塩昆布を載せた。シンプルながら、米の甘みを堪能できる1品だ。
参鶏湯と生姜トマトが540円、塩昆布は480円(いずれも店頭価格・税別、以下同)。「阿里山ウーロンティー」などストレートティーとのセットはそれぞれ680円と620円で提供する。実は発売直前に価格を見直し、参鶏湯と生姜トマトは単品で150円、ティーセットで310円、塩昆布は単品で140円、ティーセットで300円もの大幅値下げを敢行した。
すべては顧客層の拡大と来店頻度の向上という2大目標を達成するためである。「ゴンチャといえばタピオカミルクティーの店」「若い女性が行列に並んでいる店」。こうしたイメージを払拭すべく、原田泳幸会長兼社長兼CEO(最高経営責任者)は就任以来、大胆なてこ入れ策を繰り出してきた。
アップルコンピュータ(現・アップルジャパン)や日本マクドナルドホールディングス、ベネッセホールディングスなどを率いてきた原田氏は19年12月1日、ゴンチャジャパンのトップに転じて間もなく学割を始めた。学生証を提示すれば、対象ドリンクを300円から購入できるようにし、来店のハードルを引き下げた。
それだけではない。「メニューのバラエティーを広げなければ、来店頻度は増えていかない」と考え、20年2月に「黒糖ミルク ブラックティー」と「黒糖ミルク ウーロンティー」を、同年6月にはコーヒーメニューを一部店舗で先行発売。その後、黒糖ミルクシリーズは全店メニューに昇格し、同年7月にはフルーツビネガーを発売した。
続いておかゆを開発したのは、ティーメニューとの相性がいいと判断したからだ。ゴンチャブランドの根幹をなすと原田氏が考えるのが、4つのベースティーである。「阿里山ウーロンティー」「ウーロンティー」「ジャスミン グリーンティー(緑茶)」「ブラックティー(紅茶)」で、茶葉によって抽出時の湯温や抽出時間を変えて提供している。
「台湾発の世界で最高の4つの茶葉を持っていることがゴンチャの普遍的なコアバリュー。これを進化させることが戦略のコアになっていく」(原田氏)。中でも最も期待しているのが、阿里山ウーロンティーだ。
おかゆが阿里山を引き立てる
「ブラックティー、ジャスミンティー、ウーロンティーはいくら私どもが素晴らしいといっても言葉自体がコモディティー(一般的)だ。阿里山ウーロンティーは最高のウーロン茶であり、独自性もある。しかし、これまではシロップを入れたり、ミルクティーにしたりと、本来の味わいを訴求できていなかった。阿里山ウーロンティーのプレーンの素晴らしさは、おかゆとのコンビネーションでこそ際立つ」(原田氏)
おかゆは「アジアンカフェ」というゴンチャのコンセプトに沿い、購買、来店の動機付けとなる可能性もある。「おかゆは朝食にもランチにもマッチするメニュー。イートインだけでなく、オフィスや家に持ち帰ったり、デリバリーを頼んだりといろんな機会を創出でき、どの時間帯でも売り上げの拡大に寄与する。マクドナルドが早朝から店を開けているように、立地によっては提供時間を早めるトライアルも実施していきたい」と原田氏は語った。
彩々粥と同時に「クリーミー タピオカ」という新サイドメニューもデビューさせる。牛乳、バターなどをホイップしたミルクフォームをタピオカに合わせ、ゴンチャオリジナルの黒糖シロップか、ストロベリーシロップから選ぶ。価格は150円。彩々粥ティーセットを注文すれば100円で追加でき、客単価の引き上げを狙う。
コーヒーは味覚トレンドを数値化
彩々粥に並ぶ戦略商品がコーヒーである。20年10月16日以降、取扱店舗を拡大し、同月末までに全店で販売を始める予定だ。こちらも顧客層の拡大と来店頻度の向上を狙った一手である。「コーヒーは客数を最大化するための大事な戦略。日本のコーヒーの摂取量は世界トップレベル。普及率のみならず、毎日何杯も飲む方が多く、摂取頻度も高い」(原田氏)。20年6月、グランデュオ立川店(東京都立川市)で先行発売したところ、売り上げの1割以上を稼ぐ主軸メニューとなり、全国展開に踏み切った。
コーヒーメニューの開発に向け、まずは日本市場におけるコーヒーの味覚トレンドを分析。カフェやファストフードなどの外食チェーン、コンビニエンスストアのコーヒーの味わいを調査し、濃厚感や酸味、苦みの強さを数値化してメニューのポジショニングを決めた。
「ブレンド コーヒー」(Sサイズ250円、Mサイズ290円)はリッチで飲みやすく、「アイス コーヒー」(Mサイズ290円、Lサイズ340円)は、すっきりとした後味を楽しめるコーヒー豆をそれぞれ選定。「カフェ オ レ」(ホットはSサイズ390円、Mサイズ440円、アイスはMサイズ390円、Lサイズ440円)と、先行販売でとりわけ人気だったという「黒糖ミルク カフェ オ レ」(アイスのみ、Mサイズ520円)もラインアップに加えた。
「ゴンチャの勢いは去っていない」
メニューのバリエーションを増やすことは、ゴンチャの路線変更を意味するわけではないという。タピオカがコアメニューであることは今後も変わらない。その一方で、原田氏は「タピオカはゴンチャのトッピングの1つにすぎない」とも強調した。
4つのベースティーにタピオカをトッピングしたドリンクが1番の売れ筋ではあるが、個性的かつ多彩なメニューがあることによって、来店頻度が上がって客層も拡大し、4つのベースティーの売り上げもさらに伸びるという成長戦略を描く。実際にフルーツビネガーの発売以降、「戦略通り新しいお客様を獲得でき、従来のコアメニューの販売増にも寄与している」(原田氏)と分析している。
ゴンチャは19年に米国の投資ファンドTAアソシエーツの傘下に入り、グローバルで出店拡大に動いている。店舗数は既に世界で1300を超え、23年には4000店舗達成を視野に入れる。コロナ禍の中、日本でも過去最多ペースで出店を続け、20年末には前年末比35店増の90店舗まで増える見通しだ。原田氏は「数年以内に400店舗は必ず超える」と明言し、こう言った。
「昨今、いろんなメディアでタピオカブーム終焉(しゅうえん)というような切り口でご質問をよく受けるようになった。確かにタピオカドリンクはダウントレンドになっているが、そのことをもってゴンチャの勢いが去ったと誤認されないようにしたい」
原田氏が目指すビジネスモデルは極めてシンプルだ。「ベストメニュー、ベストサービス、ベストロケーションが3本の柱。素晴らしいメニューと、素晴らしいサービスを、素晴らしい場所で展開していく」。
黒糖ミルクやコーヒー、フルーツビネガー、彩々粥を発売する一方、パイナップルケーキやマンゴーケーキ、タルトやプリンなどのデザートメニューは20年8月をもって終売とした。新たなドリンクメニューを20年内に1~2種類加え、フードメニューも「既に次のパイプラインを用意している。彩々粥の売れゆき動向を見て次をいつ出すか、戦略的にタイミングを考えたい」(原田氏)と先をにらむ。
サービス面では、注文から提供までにかかる時間を3分以内に短縮する。「3分というサービスタイムは非常に大事な顧客価値だ。行列をつくって売れている感を出すといった誤った戦略から方向転換しなければならない」(原田氏)。
立地の選択も、withコロナ時代に対応していく。「渋谷や新宿などハイデンシティ(高密度)のエリアほど顧客の戻りが遅れている。むしろちょっと離れたショッピングモール、アウトレットのほうが好調で、店によっては(売上高で)コロナ前の100%を超える実績に戻っている。厳しいコロナ禍だからこそ、今までにない優良物件に巡り合う機会も増えている。今後、ベストなロケーションをうまく抽出、選択しながら事業効率を上げていきたい」(原田氏)。タピオカのゴンチャではなく、アジアンカフェのゴンチャへ。原田流の大改革は続く。
(日経クロストレンド 酒井大輔)
[日経クロストレンド 2020年10月16日の記事を再構成]
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