ホンダe 半端ない作り込みは「売れないEV」の挑戦状

ホンダが20年10月30日に発売した「ホンダe」。ベーシックグレードが451万円、上位グレードの「アドバンス」が495万円(いずれも税込み)

ホンダ初の量産電気自動車(EV)「ホンダe」。コンパクトでスタイリッシュなデザインに、先進テクノロジーをこれでもかと詰め込んだ、未来を先取りするかのような意欲作だ。ところが国内販売予定はわずか年間1000台(第1期は販売予定台数に達し、10月30日現在、注文を一時停止中)。なぜホンダはこのクルマをつくったのか。小沢コージ氏がリポートする。

国内向けは「たった1000台」の不思議

キュートでよく走ると話題のホンダ初の量産EV「ホンダe」に試乗できる日がようやく巡ってきた。とにかく魅力的。メチャクチャ楽しい走り、スタイリッシュな外観デザイン、そして未来空間のようなインテリアと、ワクワクするようなクルマに仕上がっている。ところが、国内の販売目標を聞いてみると年間わずか1000台。あまりの少なさに驚いて開発責任者の一瀬智史氏にたずねたところ、こんな率直な返事が返ってきた。

「ホンダeはもともとヨーロッパのCAFE対応で開発したクルマ。今のところヨーロッパ市場がメインなんです」

「CAFE(Corporate Average Fuel Economy)」とは、企業別平均燃費基準のこと。欧州では温暖化ガスを削減する目的で、非常に厳しい基準が設定されることになっている。欧州CAFEの基準は走行1キロメートル当たりの二酸化炭素(CO2)排出量という形で規定され、各自動車メーカーは、販売したすべての乗用車の平均値が基準を下回らなくてはならない。

この基準値は、2019年まで走行1キロメートル当たり130グラムだったが、21年には走行1キロメートル当たり95グラムという厳しい基準に本格移行する。もしこの基準を達成できないと、販売1台当たり未達分1グラムにつき95ユーロという高額の罰金が自動車メーカーに科されるのだ。

つまり、ある自動車メーカーのCO2排出量の平均が走行1キロメートル当たり105グラムだとしたら、10グラムのオーバーだ。すると10グラム×95ユーロで、1台当たり950ユーロ(1ユーロ125円で換算すると11万8750円)の罰金を、欧州内での販売台数分支払わなければならない。英調査会社PAコンサルティングは、主要13社の21年の罰金の合計額は1.8兆円にも達すると予測するほどの一大事だ。

では21年から本格適用される走行1キロメートル当たり95グラムというのは、どれくらい厳しい数値なのか。英調査会社JATOダイナミクスによると、EU域内で販売している主要20ブランドの中で、19年時点でこの新基準をクリアしている自動車メーカーはなかった。ハイブリッドを多数持ち、平均燃費で独走状態のトヨタでさえクリアできないほど厳しい規制なのだ。

全長3895×全幅1750×全高1510ミリメートルとコンパクトだ
フロント同様、リヤのデザインもすっきりシンプルにまとめられている
充電ポートはフロントのボンネットフード中央に設置。日本の充電規格「CHAdeMO(チャデモ)」対応の端子(左)と普通充電用端子(右)を搭載する
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販売数よりブランディングが目的か