日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/11/9

「(番組に出てきた)どう見てもひどいやり方は本当だったのです。ティム・スターク氏、ジェフ・ロウ氏、そして今度はアントル氏と、タイガーキングのスターが動物を虐待していたことが次々に暴かれました」。なおアッシュ氏は、野生動物の不正取引に関する法律を執行する米魚類野生生物局の前局長でもある。

アントル氏がソーシャルメディアに投稿した動画には、氏と家族がトラと一緒にプールで泳いだり、チンパンジーと遊んだりする様子が写っている。起訴状に書かれた虐待の罪とは実に対照的だ。そのうちの3件では、アントル氏が19年の7月と8月に故意にライオンの子どもに対して虐待を続け、「拷問または不必要な苦痛」を与えたとされている。

マートルビーチ・サファリのプールでトラと一緒にポーズを取るアントル氏(右)と、スタッフの(左から右へ)コディ・アントル氏、モクシャ・バイビー氏、チャイナ・ヨーク氏。2018年撮影。アントル氏の家族は、トラと一緒に泳いだりチンパンジーの子どもと遊んだりする動画を頻繁にインスタグラムやTikTokに投稿し、数百万人のフォロワーを獲得している(Photograph by Steve Winter, National Geographic )

州を越えた異例の捜査

事件を捜査したのは、バージニア州の動物法係。動物福祉および虐待事件を専門に調査する、米国初の州司法長官直属の部署だ。これまでに同係は、解剖、研修、相談も含め1714件の動物に関連する事案を扱っている。「15年に動物保護法課を設立したときには、これほどの成果が上がるとは想像もできませんでした」と、バージニア州司法長官のマーク・ヘリング氏はナショナル ジオグラフィックに宛てたメールで述べている。

「動物を守るために法執行機関は何をすべきかという優れた例になっています」と評価するのは、米オレゴン州ポートランドにあるルイス&クラーク・カレッジ法科大学院の動物法訴訟教室を主宰するデルシアンナ・ウィンダース氏だ。

氏は、連邦政府機関として動物福祉法執行の任務を負うはずの農務省が、マートルビーチ・サファリについて「問題なし」とする検査報告書を19年11月と20年1月に発行した点を指摘する。バージニア州当局がその間の19年12月に、アントル氏起訴の証拠を得るための捜査の一環として、同サファリの捜索を行ったにもかかわらずだ。

ウィンダース氏によれば、州が動物違法取引事件の捜査と起訴を行うことはまれだ。ましてや州を越えて捜査することはめったにない。だがバージニア州の捜査官は、同州でのウィルソン氏の行為をサウスカロライナ州にあるアントル氏の動物園に結び付けた。

ただしバージニア州の管轄権が及ぶのは、同州内での活動に限られる。今後、アントル氏によるマートルビーチ・サファリの運営についてさらに捜査するかどうかはサウスカロライナ州の当局次第であり、また、動物福祉法および連邦の野生動物不正取引に関する法律の違反について捜査を続けるかは連邦当局次第だ。

アントル氏は、野生のトラの保護のための資金集めを名目とする財団「希少種基金」を運営している。最近になって、イメージチェンジを目指して新たなリアリティショーに主演することを発表した。10月1日付で米娯楽誌「ピープル」に掲載された記事では、「米国内に深刻に助けを必要としているトラがいるという誤った分析がされているが、本当に救う必要があるのは野生のトラだ」と語っている。

米動物園水族館協会のアッシュ氏は、ロードサイド・ズーの捜査は極めて重要だと強調する。

「ああいった施設が存在するのは、行く人がいるからです」と氏は言い、動物が見たければ、米国内には認可された動物園がいくらでもあると指摘する。そして、魚類野生生物局で違法な動物製品を観光客が土産として購入しないよう取り組んでいたときに使用していたスローガンを紹介して締めくくった。「よく知ろう、正しく買おう」

(文 NATASHA DALY、訳 山内百合子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年10月14日付]

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